ジェーン・スー×宮嵜守史【対談】「自分は特別」と勘違いしない。ウソがつけないラジオで気をつけてること/ラジオはパーソナリティ〝次第〟④
更新日:2025/10/7
『ラジオはパーソナリティ〝次第〟』(宮嵜守史/ポプラ社)第4回【全5回】
「結局、ラジオはパーソナリティのものなんだよ」。AD時代、放送作家に言われたこの一言が忘れられない――。ラジオ番組の賛否を全面的に背負うパーソナリティ。その魅力や必要な能力、聴く人を味方につける技術とは? TBSラジオ「JUNK」統括プロデューサーで本書の著者・宮嵜守史。山里亮太、ヒコロヒー、ジェーン・スー、アルコ&ピースら計9組の人気パーソナリティとの対談を通してラジオパーソナリティとは何かを考えた一冊『ラジオはパーソナリティ〝次第〟』をお届けします。


パーソナリティに出自や肩書は関係ない ジェーン・スーさん
「ジェーン・スー 生活は踊る」を聴いているとスーさんのパーソナリティとしての技術や才能を端々に感じる。巧みな言語化能力、起伏の少ない話し方やテンション。それらがリスナーの腹落ちを促す。スーさんは自分の話したいことや考えていることを、正確にかつ興味深く伝えることができる。思いをその形のまま、生のまま届けることで、互いの認知がズレることなくリスナーとシンクロできる。
同時にスーさんのラジオからは人柄や人間性もにじみ出る。「私は昔っから手が短いのがコンプレックスでさ」とあっけらかんと言ってのけたり、相談に対して放送時間内に無理やり結論づけようとせずに傾聴したり。つねに素でいてくれる安心感がある。
僕は深夜の芸人ラジオ番組ばかり担当してきたので、午前のワイド番組をしているスーさんと通じ合えるか不安だった。でも対談が始まってものの数分でそれは杞憂に終わる。不思議なことに共感することがたくさんあった。あらためてラジオパーソナリティに出自や肩書は関係ないと実感できた対談だった。いや、対談を通して僕にそう思わせてくれたのがスーさんのパーソナリティとしての腕なんだろう。
パーソナリティが共通して持っている〝俯瞰カメラ〞
宮嵜 実はスーさんとずっとお話ししてみたかったんです。
スー ありがとうございます。宮嵜さんとは接点があるようであんまりなかったですよね。
宮嵜 出役をやっている人……特にラジオの話なんですけれど、見栄っ張りだったり、虚栄心が強かったりする人はあんまりうまくいかないという持論があるんです。『(ジェーン・スー)生活は踊る』を聴いていると、スーさんにはそういう部分が全然ないように感じて。それで話してみたいと思ったんですね。
スー テレビは出たい人が出て輝くメディアだと思うんですよ。テレビに出たい人の「出たい」にはあんまり明確な理由は必要ないと思うんですね。「おいしいものがあったら食べたい」と同じぐらい直情的というか。でも、ラジオの場合、出たい人の話はあんまりおもしろくない。それがテレビとラジオで圧倒的に違うところだと思います。自分の話を多くのリスナーに聴いてもらいたい、それが理想像としてハッキリあるタイプの人の話はあんまり跳ねないんだろうなって気がしています。
宮嵜 テレビは街頭のテレビ中継にピースして映りに来る人のものともおっしゃっていましたね。
スー そうです。たとえば、お笑い芸人さんや俳優さんだったり、私だったら書く仕事だったり、どちらかというと別の仕事もやっているパーソナリティが多いのもそれが理由なのかなと思います。長くやっている方であっても、ラジオは自分が真ん中にある人が輝くメディアではないというのは、やればやるほど感じますね。
宮嵜 深夜ラジオではよくクラスの1軍・2軍論が出てきます。1軍はテレビに出る人とイコールで結ばれて、反対に2軍はラジオリスナーにシンパシーを感じさせるポジション。そうやって無理にカテゴライズする必要はないんですけど、ラジオはどちらかというと自意識の中で「俺は2軍だ」と感じている人に話してもらったらおもしろいというのはあるように思いました。
スー 本当に自意識の問題だと思います。実際に1軍か2軍かということよりも、自意識をどこに置いているか。与えられたものを素直に飲み込めないタイプのほうが、ラジオでは〝話じろ〞みたいなものがあるというか。
宮嵜 確かにそうですね。ラジオパーソナリティって共通して自分とは別の〝俯瞰カメラ〞を持っていると思うんです。自分を俯瞰できる人はおもしろい話ができる印象があって、それをスーさんにも感じていました。たとえば『生活は踊る』のナゲット特集で、ナゲットをめしあがる前に「脂肪の吸引を抑えるサプリを飲むからね」と普通に言えるところ。しっかりと素っ裸な状態を作れてラジオができるのはパーソナリティに必要なことだと思います。
スー その点でいくと、いわゆる〝ドマス〞のメディアであるテレビと今のラジオの両方で愛されるのって、田中みな実さんだと思うんですよね。あの人はテレビだとちょっと強烈なキャラで、バラエティで頑張っているように見えます。すごくキレイな人でもあるから、雑誌だと本当に〝美の巨人〞として崇め奉られていますよね。でも、ラジオだとしつこいよというぐらいこだわりの話をして、まわりの人が何を言っても引かない。自分をさらけ出すというところでいうと、あの人は最上級者です。
宮嵜 ついさっき、TBS局内でバッタリ会ったんですよ。2年ぶりぐらいに。『田中みな実 あったかタイム』は僕の部下がスタッフをやっているので、「いつも○○がお世話になっています」と挨拶したら、「えっ、何? そんなにかしこまって。なんで敬語なの?」って言ってきて。こういう部分ですよね。そう言われてすごく嬉しかった(笑)。
スー 気取ってないんですよね。全力で頑張っているところは裏までちゃんと見せたい、そういうところがすごくラジオ向きの人だなって思います。綺麗事を耳だけで聴くのって結構キツい。たぶん映像があったり、文字面だけだったらまた別なんだと思うんですけど、耳に直接入ってくるメディアだと違いますよね。ド正論もそうですが、みんなが嫌な気持ちにならないことを最優先した言葉はあんまり聴いていて楽しくないです。
