その間取り図、何かがおかしい――日常に潜む狂気を暴く“変な家”の恐怖【書評】

マンガ

公開日:2025/10/30

 ©雨穴・綾野暁/一迅社
©雨穴・綾野暁/一迅社

 動画再生数2500万回突破、原作本はシリーズ累計250万部を超えるベストセラー。さらに、2024年春には映画化もされた不動産ミステリー『変な家』(雨穴(飛鳥新社刊):原作、綾野暁:漫画/一迅社)だ。

 すべての始まりは、ごくありふれた「中古住宅の間取り図」。一見、何の変哲もないその図面ににじむ“違和感”が、じわじわと日常を侵食し、読者を戦慄の物語へと引きずり込んでいく。

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 物語は、オカルト専門のフリーライターである主人公が、知人から「家を買おうと思っていて……」と相談を受け、間取り図を見せられるところから始まる。一見して問題なさそうな図面だが、目を凝らせば凝らすほどに、見逃せない「奇妙さ」が浮かび上がってくる。たとえば、窓のない子ども部屋、意味をなさない空間配置、そして謎の二重扉。そうした“不自然”を、設計士の視点も交えながらひとつずつ解き明かしていく過程は実にスリリングで、読者は気づかぬうちに、出口の見えない迷宮の奥へと足を踏み入れていく。

 では、その違和感の正体とは何か? その答えを追うたびに明らかになるのは、家の裏側に潜むおぞましい真実だ。読者は、間取りから「この家でいったい何があったのか?」と想像を掻き立てられていく。

 この作品の恐怖の源は、幽霊でも呪いでもない。もっと身近で、もっと現実的な「人間の闇」だ。誰もが何気なく通り過ぎるような家。その平凡な空間の奥底に、密かに潜んでいたかもしれない殺意と狂気。日常に紛れ込んだ「異常」が、読後になってじわじわと効いてくる。日常と狂気は、紙一重。ふと目にした間取り図が、地獄への入り口だったとしたら? そんな一見突飛な発想こそが、本作の核を成している。

 この物語に流れているのは、“静かに侵食してくる恐怖”。ページをめくるごとにじわじわと染み込み、気づけばあなたも、その世界の深みへと足を踏み入れているだろう。そして読み終えたあと、誰かの家を訪ねるたび、きっとあなたは、その間取りに目を凝らさずにはいられなくなるはずだ。

文=ネゴト / すずかん

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