ありふれた日常に潜む異変。「霊感ナシ」を自称する著者が遭遇した、ゾッとする体験がコミックエッセイに『私、視えないんです? ~霊感のない私の不思議な話~』【書評】
公開日:2025/9/19

とても理屈では片づけられないような不思議な出来事、というのはたしかにある。たとえば、誰もいないはずの場所でふと背後に視線を感じたときや、夢で見た情景が思いがけず現実と重なったとき。どれも明確な答えは得られず、ただ不可解な感覚だけが心に残るのだ。
『私、視えないんです? ~霊感のない私の不思議な話~』(おーはしるい/ぶんか社)は、そんな不思議な体験の事例をまとめたコミックエッセイ。著者が遭遇した説明のつかない事象の数々が、親しみのあるやさしいタッチで描かれている。
著者は子どもの頃から現在にいたるまで、数々の不思議な事象に遭遇してきた。
風邪で寝込んだ夜、部屋に突然現れた日本人形。夜のジョギング中、背後には誰もいないのに聞こえてくる自転車の音。深夜のテレビ画面に映り込んだ謎の手。
どれも背筋がぞくりとするような不気味な出来事ばかりである。
印象的なのは、著者がそれらを心霊現象と断言するのではなく、あくまで「夢の中の出来事か、それとも現実か判断できない不思議体験」として語っていることだ。
作中では、不可解な現象に対する恐怖心よりも、むしろ純粋な戸惑いや驚きが強調されている。一方的な解釈を押しつけないその素朴な語り口が、「これは自分にも起こり得るかもしれない」という読み手の想像力や好奇心をかき立てるのだ。
描かれている事象の一つひとつに妙に現実味が感じられるのは、体験談の多くが日常の延長線上にあるためだろう。
心霊スポットやワケあり物件といったよく聞く怪談の舞台ではなく、なにげない日常風景の中にふと紛れ込む違和感は、読者の心に強烈な印象を残す。
信じるか信じないかの判断は読み手に委ねられたまま、日常と非日常の境目がしだいに曖昧になっていく恐怖は、本作ならではの魅力のひとつ。読後に日常の風景が少しだけ違って見えてくるような、不思議な感覚を与えてくれる1冊だ。

