近寄りがたいあの子が、食べ物の前では自由奔放に! ヒロインの食べっぷりに癒やされるグルメ系じれきゅんラブコメ『春川さんは今日も飢えている』【書評】

マンガ

公開日:2025/9/27

 美味しい食事には、こわばった表情を笑顔に変え、心の緊張をほどき、穏やかな時間をもたらす魔法のような力がある。食卓でのひとときは、ただ空腹を満たすだけでなく、心を癒やして明日への活力を養う大切な時間なのだ。

春川さんは今日も飢えている』(おりはらさちこ/ぶんか社)は、そんな食の魅力を届けるラブコメディである。

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 主人公・春川夏実は、常に眉間にシワを寄せ、どこか近寄りがたい雰囲気をまとった会社員。毎日きっちり定時に職場を後にしているわりには、若者らしく遊んでいる様子もなく、そのミステリアスさに周囲からは自然と距離を置かれていた。

 しかし、硬い表情や真面目すぎる態度は、あくまで職場での仮の姿に過ぎない。プライベートでは、驚くほど自由で奔放な本性が炸裂! 食べ物の前ではテンションが爆上がりし、規格外の大食い&天然キャラが全開になるのだ。

 本作の見どころは、何といっても主人公・春川さんのキャラクターの可愛らしさだろう。

 普段は一貫して無愛想でクールな春川さんが、美味しい食事を前にした瞬間、まるで別人のように生き生きとした表情を見せる様子は何とも微笑ましく、見ているだけで思わず笑みがこぼれる。彼女の食べっぷりには心からの喜びが溢れており、表情やしぐさの一つひとつから、食べる楽しさがひしひしと伝わってくる。

 また、食べ物の描写の緻密さもポイントだ。カツ丼にトマトやアボカドを添えたり、濃いめの味つけの唐揚げをたっぷりの水菜と一緒に楽しんだりと、作中の料理には創意工夫が凝らされており、読者の食欲をそそる。

 そして、そんな春川さんの意外な一面を知り、少しずつ心惹かれていく同僚・芹沢くんの心情の変化も見どころのひとつ。春川さんの食への愛情が強すぎるがゆえ恋愛モードになかなか切り替わらず、思うように進展しないふたりの関係がじれったくも微笑ましい。

 グルメ漫画好きはもちろん、ラブコメ好きの心も満腹にさせる1作だ。

文=ネゴト / 糸野旬

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