大量殺人が起きた村、呪いの箱、メリーさん。ネット社会に広がる都市伝説は本当にただの噂ですか?【書評】

マンガ

公開日:2025/9/20

 昔から語り継がれてきた都市伝説。それらは本当にただの噂にすぎないのだろうか。

ただのうわさです』(飯倉義之:原案、三ノ輪ブン子:漫画/ぶんか社)は、都市伝説とSNSを掛け合わせ、新たな恐怖を描き出すホラー作品である。

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  主人公の雨森は、就活に失敗し続けている限界浪人生。面接で28連敗を記録し、雑学系ネットニュースサイトのライターとしてバイトを始める。

 担当するのは、SNSや掲示板で拡散されるオカルトスポットや怪しい噂の取材記事だ。編集長に時に強引に依頼され訪れた取材先で、雨森は次々と信じがたい怪異現象に巻き込まれていく。

 タクシーで隣に座るびしょぬれの女。現実の街角にに立っている、夢で遭遇した通り魔。あるいは、呪いの箱としてネット上で語られる「コトリバコ」など、一度は聞いたことのあるような有名な都市伝説も作中で次々に登場する。

 誰もが見知った怪談を題材にしながら、予測のつかない展開と恐怖を積み重ねていく本作。人間が恐怖に包まれる表情や、幽霊や狂気に満ちた人の表情がリアルな筆致で描かれることで、恐ろしさが倍増する。

 なかでも印象的なのは「杉沢村」のエピソードだ。一晩で30人が殺されたと噂される廃村を、出張取材で訪れた雨森。現地で「そんな話はデマだ」とあっけなく言われてやる気を失う。

 だが、現地で出会い同行することになった謎めいた男の存在が、物語を揺さぶっていく。掴みどころのない男の正体、村に残されたおぞましい過去。すべてが明らかになった瞬間、読者の背筋は凍りつくはずだ。

 本作でおそろしく描かれるのは、怪異そのものだけではない。SNSで誰かが語った「ただの噂」が、もしかしたら自分のすぐ隣に潜んでいるかもしれない、という感覚。それこそが本作の与える恐怖なのだ。

 身近に起こりうるかもしれないリアルさ。読み手の心に、ページを閉じても消えない恐怖を残していく作品である。

文=ネゴト / fumi

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