『特別展 古代メキシコ マヤ、アステカ、テオティワカン 展覧会図録』ブックデザイナーの装丁惚れ プロフェッショナルが思わず惚れる、美しき逸品

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/10/8

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年9月号からの転載です。

控えめなのに芯が強く人懐っこいのに高潔。不思議な魅力に惚れた

特別展 古代メキシコ マヤ、アステカ、テオティワカン 展覧会図録
(NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社:発行)2800円(税込)※品切重版未定
装丁:佐藤大介(サトウデザイン)

 僕が初めて「メキシコ」を認識したのは、1986年サッカーW杯メキシコ大会だ。アディダス製の公式球「アステカ」の幾何学模様にときめいてしまって、同じデザインのボールを親に買ってもらった。いま思えば「グラフィックデザイン」に目覚めたのもこの時だったと思う。

 そんな僕は2023年、東京国立博物館で催された「古代メキシコ」展に鼻息を荒くして家族まで連れ出して向かった。今回紹介したいのはその展覧会図録だ。
展示はとても素晴らしくて、会場を出ることを躊躇するほどだったのだが、ミュージアムショップでこの図録が温かく迎えてくれたのである。

 ソフトカバーで威圧感がなく素朴で、それは神々が民に寄り添うよう。持ち上げると身を任せるようにしなり、背の角が手の肉に心地よく食い込んでくる。大きく、やや正方形に近い判型のコデックス装が展開する見開きはワイドで、さっきまで観ていた「古代メキシコ」を目の前に再現してくれる。ゆったりとしたレイアウトで文字組みは正統。本を閉じたあとには、古代メキシコの情景だけが残る。

 大仕事をしているはずなのに目立ちたがらない、透明感すら感じる装丁なのである。

選・文=吉池康二(アトズ)、写真=首藤幹夫

よしいけ・こうじ●1974年、長野県生まれ。日本大学芸術学部美術学科ビジュアルコミュニケーションデザインコース卒業。本やロゴなどさまざまなグラフィックデザインをしています。デザインに不可欠なものは普遍性、時代性、個性、微量の毒。

<第4回に続く>

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