ヨシタケシンスケ お悩み相談に「ネガティブさが足りない(笑)」? “元気のない歴50年”の著者とともに心を軽くする「そんなこともアラーナ」【書評】
更新日:2025/10/3

『お悩み相談 そんなこともアラーナ』(白泉社)。いったいどうして、ヨシタケシンスケさんは、こんなにも心を軽くするユーモアにあふれたタイトルを次々考えられるのだろう。本を読む前から、「そんなこともアラーナ」とつぶやけば、たいていのことは乗り越えて……というより、流していけそうな気がする。もちろん、読んだあとはもっと「ま、いっか」と思える本作は、ヨシタケさんのもとに寄せられたたくさんのお悩みに答えていく一冊である。

笑ってしまったのは、最初のお悩みに対して、「まだネガティブさが足りないですね(笑)」と答えていたことだ。心配性で、何かするときにはあれこれ悩み、済んだあともくよくよしてしまうという人へ、一発目の返しがそれ。でも確かに、そうなのである。悩むのは「うまくいくんじゃないか」という期待があるから。〈「何一つうまくいかないだろう」って思っておくと、思ったよりはうまくいく〉〈「うまくいくはずだ」という前提をまず疑いましょう〉という最初の助言は、本書において核となるスタンスだ。
自分を好きになれないとか、なにも成し遂げられていないとか、悩むのは、裏を返せば「自分を好きになる」「何かを成し遂げる」ことが、あるべき状況だとどこかで信じているからで、その時点で、多少の自信や肯定感をそなえているということでもある。でも、中途半端だから、落ち込む。その原理が見えただけで、なぜだか心がすっきりする。その後も、別のお悩みにヨシタケさんが返していた「ネガティブさがまだちょっと足りない」は「そんなこともアラーナ」と同じくらい、お守りに持っておきたいな、と思える言葉だった。
人間関係や、子育て、年をとること、他人とのあいだに感じるズレなど、本書にはさまざまなお悩みが登場する。我が子に冷静に対応している人なんて、人類史上一人もいないのだから、「人類初の冷静な親」を目指す必要はないという親目線のアドバイスは、刺さる人が多いだろう(親に対して冷静な子どもであろうとしなくてもいいのだ! とも思えた)。
なかでもいちばん好きだったのが9歳の相談者からの〈人間生活の中で一番大事だと思うことは何ですか?〉という質問。そしてそれに対するヨシタケさんの〈好きな歌の歌詞を全部覚えて、そらで歌えること〉という答え。その真意は本書で確認していただけるが、もしわからなかったとしても、この一問一答だけで、じんわり胸にしみるものがある。そうだなあ、そうだよなあ、とつい、うなずいてしまう力強さがあったのだ。
27歳の相談者による〈全身全霊“私”で過ごしたいのですが、どうすればいいですか?〉というのは、もうその問だけで文学だと思ったけれど、自分と共通する悩みを抱く人に「ひとりじゃない」と思えたり「なんという感性!」と心揺さぶられたりするのも、お悩み相談の醍醐味。

お悩みの隙間に登場する「アラーナちゃん」なる女の子の、適当そうに見えて真理をついたアドバイスも含め、すみずみまで読めばきっと「まあ、それなりに、私は大丈夫」と、心を軽くすることができるはずだ。
文=立花もも
