さりげなく食卓に入り込むヒモ男。彼と料理を囲めば自然と悩みが消えてゆく…ちょっと不思議で優しい食事風景を描く『ヒモメシ』【書評】

マンガ

公開日:2025/9/30

「ヒモ男」そう聞いてどんな男性を想像するだろうか。『ヒモメシ』(塩野ネリコ/ぶんか社)に登場するヒモ男は、なんとも一風変わっている。

 本作で描かれるヒモ男・夏生(なつお)は、人の食卓に自然に入り込み、共にご飯を食べる不思議な男性だ。彼を中心に繰り広げられる人間ドラマに、読めば心が温かくなるはず。
 
 人目を惹く容姿と、天性の人懐っこさを持つ夏生。誰の懐にもするりと入り込み、気づけばその家の食卓に座りタダ飯を食べている。

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 出会った相手は見ず知らずの人ばかりだが、彼の柔らかな物腰と優しい笑顔に翻弄され、両者は次第に打ち解けていく。

 姉への劣等感を抱えた、ひとり暮らしを始めたばかりの女性。料理を「口実」として利用されることに違和感を抱く女性。夏生は、悩みを抱える人々の食卓に溶け込み、料理を囲みながらその心の奥に触れていく。

 夏野菜のカレー、かき氷、冷やし中華……本作で描かれる献立は、どれも家庭的で馴染みのあるものばかりだ。食事風景になると皿の上の1品が鮮やかな色彩で描かれ、湯気や香りまで感じられる気がする。
 

 やがて登場人物たちは、普段なら口にできない本音を夏生へ少しずつ語り出す。夏生と一緒に食卓を囲むと、強ばった心がほぐれていくようだ。

 そうすると次に気になるのは、夏生自身のことである。美しい容姿と軽やかな振る舞いの裏に、どこか影を落とすような一面が垣間見える。何気ない言葉の端々から、彼の過去や抱える孤独が少しずつ明かされていく。

 人と一緒にご飯を作り、食卓を囲み、他愛もない言葉を交わす。その時間こそが食事をより美味しくし、毎日を生き抜く力になるのだろう。『ヒモメシ』は、そんな当たり前だが忘れがちなことを、そっと思い出させてくれる作品である。

文=ネゴト / fumi

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