さまざまな事件現場に残された「N」の文字が意味することとは? 読み進めるほどに謎が深まる、怪異の恐怖と人間の狂気が絡み合う新感覚ホラー【書評】
公開日:2025/9/24

【怖い場面あり、苦手な人は閲覧注意!】
『N』(くるむあくむ:原作、にことがめ:作画/KADOKAWA)は、恐怖の連鎖を鮮烈に描いたホラー漫画である。謎が謎を呼ぶ展開と、読み進めるほどに高まる違和感と緊張感が話題を呼んでいる作品だ。
本作では、不可解な出来事や謎に満ちた事件の数々がオムニバス形式で描かれる。霊園での男子中学生5名の行方不明事件、とある小学校で起きた惨殺事件、自動車の暴走による2名の死亡事故――。一連の事件現場には必ず「N」の文字が残されていた。主犯と囁かれるのは、2000年前に崩壊したはずの宗教団体「N」。「N」とはいったい何なのか? 物語が進むにつれ、些細な出来事に伴う小さな違和感が次々と別の恐怖を呼び込み、一見無関係に思えるさまざまな事件はしだいにつながり合っていく。
本作の最大の見どころは、各エピソードにまつわる恐怖体験が互いに地続きとなって広がり、しだいに巨大な恐怖の構造を形作っていく描写の巧妙さだ。ひとつひとつの謎に明確な答えが示されないまま物語が進行していくため、読者は常に不安を抱えながら読み進めることになる。暗闇に対する不安が見えない何かへの恐怖を呼び込み、さらに制御不能な状況への恐怖へと発展するように、作中の恐怖もまた網目のように複雑に連鎖し、やがて読者を逃げ場のない心理的迷路へと追い込んでいく。この底知れぬ没入感はホラーファンにはたまらないだろう。
また、得体の知れない怪異にまつわる恐怖だけではなく、人間の心の闇や社会に潜む漠然とした不安が象徴的に描かれている点ももうひとつの魅力だ。例えば、引きこもり気味だった男性が偶然目にしたネットニュースがきっかけで「N」に関わってしまうエピソードは、あまりにも現実味があって背筋がぞわりとする。張り巡らされた謎や緊張感あふれるサスペンス要素は、仕掛けのある物語を愛する読者に強烈な読み応えをもたらすこと間違いなし。ホラーとミステリー、両方の魅力を兼ね備えた圧巻の作品である。
