アニメ第二期制作決定!『光が死んだ夏』作者モクモクれん「とても単純なことを、私はこの物語を通じて描きたいのかもしれない」人外との共生でこそ描ける“人間像”とは【インタビュー】

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更新日:2025/10/3

 今年 7 月よりTV アニメが放送し、第二期制作が先日発表され『光が死んだ夏』。原作コミックスは現在第7巻まで発売され、累計発行部数は400万を超えるヒットを記録。登場人物たちの繊細な心理描写や土地に根差した人間関係の空気感、そして何でもない風景の中に現れる怪異描写は読者からも強い支持を得ており、海外でも人気を博している。本作のアニメ化に寄せ、著者のモクモクれん氏に作品が生まれた背景やキャラクター造形、そしてアニメと作品の今後について話をうかがった。

 ある集落で暮らす少年、よしきと光。2人は幼いころから一緒に育ってきた幼なじみだった。しかし、ある出来事の後、よしきは光が“別のナニカ”にすり替わっていることに気づいてしまう。よく知った親友の、全く知らない姿と気配。それでもよしきは彼と離れがたく、“ナニカ”との共存を選択する。しかし、集落ではおかしな事件が起こりはじめ、2人の日常を揺るがしていく――。

とても単純なことを、私はこの物語を通じて描きたいのかもしれない

――アニメ『光が死んだ夏』は、原作の世界観を忠実に再現しながらも、映像ならではの臨場感で物語が迫ってきます。アニメをきっかけに原作を手にとる方も増えているはずなので、改めて本作を描こうと思ったきっかけを教えていただけますか?

モクモクれん氏(以下、モクモクれん):「人間に成り代わってしまった人外が、自身のアイデンティティに葛藤する物語を読みたい」と思ったんです。高校時代、『東京喰種』にドはまりしたのですが、その理由は人間社会にまぎれている人外の存在が、さまざまな葛藤を抱えながら生き抜いていく姿に惹かれたから。そういったアイデンティティの揺れを感じられる物語がもっとあったらいいのになあ、と。私の知る範囲では、すでに生き物としての誇りを確立した人外と人間が対峙することで、正体を暴いて、元の平和な世界に戻すために戦ったり、相手が幽霊ならば成仏させたりすることで平穏をとりもどすような物語が多い印象だったんですよね。

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「光が死んだ夏」キービジュアル
「光が死んだ夏」キービジュアル©モクモクれん/KADOKAWA・「光が死んだ夏」製作委員会

――確かに本作では、主人公・よしきの「人でなくてもいいから親友の光を失いたくない」という感情だけでなく、山で光に成り代わった“ナニカ”=ヒカル自身が、よしきとの関わりによって救われ、自我を形成していく姿が描かれているところが、はじめて読んだときに印象深かったです。

モクモクれん:不思議なもので、人間同士ではないからこそ、わかりあえない存在に対して歩み寄ることができるんですよね。たとえば飼い犬に去勢手術をほどこす際、「これは人間のエゴなんじゃないか」と疑念が頭をよぎる方は少なくないと思うのですが、その考えが浮かんだ時点で、人間本位の視点を捨てて犬に寄り添おうとしていますよね。言葉が通じない、相手の心を真に理解することができない存在に対して、自分にできる範囲で理解を示そうとすることが、犬相手ならば自然とできるのに、人間同士だとなぜかうまくいかない。

――人間同士でも、異文化に育った方など、最初から「自分とは違う文脈を持っている」とわかっている相手に対するほうが、ちょっとした価値観の差異も受け入れやすかったりしますよね。

モクモクれん:そうなんですよね。生命体として明らかに自分とは違うヒカルを通じてだからこそ、自分が信じる常識の正しさにとらわれず、相手のことを理解するために努めようとする人の姿も表現できるのかもしれないな、と描きながら感じています。言葉にすると陳腐に感じられてしまう、とても単純なことを、私はこの物語を通じて描きたいのかもしれない、とも。

小林千晃さんは、よしきの陰キャ感を出すのがとてもお上手

――そんな主人公2人の声優は、オーディションで選ばれたそうですが、どんな印象をお持ちですか。

モクモクれん:小林千晃さんは、よしきの陰キャ感を出すのがとてもお上手だなあと思いました。主人公ではありますが、よしきは等身大の心の弱さや矛盾を抱えて葛藤している、ごくありふれた男子高校生。いわゆる主人公感のある、芯の通ったまっすぐな自我を感じられる声はちょっと違うんだよなあ、と思っていたのですが、小林さんはよしきのパーソナリティを絶妙に表現してくださいました。

 梅田修一朗さんは、ご本人の持つ、“明るくて無邪気なんだけれど真面目さも感じられる性格”がヒカルのキャラにマッチしているんだと思います。と同時に、「めちゃくちゃ相槌うってるけど、こいつ、絶対わかってないだろうな」感をかもすのがものすごくお上手なので、びっくりしました。そのあたりのヒカルのぎこちなさは、ご本人が意識して表現してくださっているそうで、本当にありがたいです。

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