灯野リュウ「渋谷の歴史を遡っていくと、実は不可解な噂が出てくるんです」【『渋谷神域』インタビュー】

ダ・ヴィンチ 今月号のコンテンツから

公開日:2025/10/12

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年10月号からの転載です。

 都市伝説系YouTuberとして人気を博し、2021年には初の著書『退屈な日常を破壊する都市伝説』を上梓した灯野リュウさん。それから4年。待望の2作目として灯野さんが完成させたのは、まさかの長編小説だった。

「都市伝説についてまとめた1作目は、どこかエッセイっぽさもある内容だったんです。だから書きやすかった。その後、2作目のオファーをいただいたときに、今度は小説にしようと思いました。ちょうど30歳になるタイミングだったので、若い感覚があるうちに、世の中の見え方を残しておきたかったんです。同時に、それまで小説を読む習慣がほとんどなかったから、相当難しいことはわかっていたものの、自分の限界値を超える体験ができるのではないか、と。いざ、企画がスタートしてから必死に小説を読んで勉強して、なんとか書き上げられました」

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 タイトルは『渋谷神域』。古書店でアルバイトをしながらYouTuberとしても活動する主人公が、いつの間にか壮大な陰謀に巻き込まれていくというストーリーだ。神隠し、記憶喪失、結界、謎の組織……と、都市伝説好きをワクワクさせるキーワードが鏤められ、最終的には渋谷にまつわるひとつの秘密が解き明かされていく。

「小説を書くのは初めてでしたけど、都市伝説を扱うのはプロなので、作中にそれらを入れ込むのは苦労しませんでした。作品のテーマを踏まえながら、どんな噂を入れていったら面白くなるかな、と考える感じでしたね。そうそう、登場するエピソードは渋谷の歴史を深く調べていくと、あながち嘘じゃないことがわかると思います。かなりリアルなエピソードをたくさん入れながら、小説にしていったんです。主人公自体も、非常にぼくと近いキャラクターになっています。だから、ぼくを知る人が読んだら、『どこまでがリアルでどこからがフィクションなの?』と思うかもしれない。それって、ぼくが都市伝説系YouTuberとして表に出ているからこそできた書き方ですよね。そんなところも楽しんでもらいたいです」

 初挑戦だった小説には、手応えを感じている。

「もしもたくさん読んでもらえたら、シリーズ化してみたいんです。この主人公だったらいくらでも書ける気がしていて。ミステリー小説には事件に首を突っ込む“探偵役”が不可欠ですよね? でも、一般人を探偵役にするのはそれなりの理由がないと説得力が出ない。その点、都市伝説系YouTuberが事件に首を突っ込むのって納得できるじゃないですか。だから、この主人公でさまざまな事件を描いていけたら面白いと思うんです。長さの都合で入れられなかったエピソードもありますし、世の中には不思議なことがたくさんある。小説家として、今後も書いていきたいです」

 もちろん、YouTuberとしての活動にも意欲的だ。

「執筆期間はYouTubeにあまり力を入れられなかったんですが、少し離れていたからなのか、あらためて動画投稿の面白さに気づくことができました。だから、チャンネルをブラッシュアップして、もっとみんなに観てもらえる内容にしていきたい。それと同時に、小説の勉強も重ねていくつもりです。小学生に戻った気持ちで、動画も執筆も、どちらも楽しみながらチャレンジしていきたいですね」

取材・文=イガラシダイ、写真=島津美紗

ひの・りゅう●1994年、福島県生まれ。YouTubeチャンネル「ミルクティー飲みたい」を運営し、古今東西の都市伝説について発信している。登録者数は約61万人を突破(2025年8月18日現在)。「子どもの頃からミステリーやオカルト番組が好きで、共通の話題で盛り上がれる場所を探していました。結果、自分のチャンネルがそんな場所になっています」(灯野さん)

灯野リュウさんの本

『渋谷神域』
『渋谷神域』(灯野リュウ(ミルクティー飲みたい)/KADOKAWA)1760円(税込)

渋谷を中心に、若者たちが次々に失踪する怪事件が起こる。都市伝説系You
Tuberの響一は調査をはじめるが、やがて自身も“神隠し”に遭ってしまい──。誰もが知る街を舞台に、巨大な陰謀を描く新感覚の長編ミステリー。

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