SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第51回「ボーカル会」

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公開日:2025/9/27

 一括りに「バンドマン」と呼ばれる我々だが、当然のことながら担当している役割は違う。その役割によってざっくりと、わかりやすく性格が分かれていたりするのは、もしかしたらあまり知られていない事実なのかもしれない。

 もちろん十人十色千差万別。それぞれが別の人間なのでそんなに単純じゃないことはわかっている。ただ、アメショーは人懐っこくて、ブリティッシュは穏やかで、みたいな、ざっくりとした性格分布はある気がしているのだ。

 ざっくりとだが、このテーマに対して「んん、どうだろ」と首を傾げるのがボーカルで、「あはは、確かに」と笑ってるのがギターで、「一括りにすんな」って呟くのがベースで、「うんうん」と頷きながらそのBPMで膝を叩いてリズムを取り始めるのがドラムって感じ。誰かに怒られそうだけど、そこまで的外れではない、はず。

 選んでその役割をやっているからなのか、やってるうちにそうなっちゃうのかは不明だ。

 私はボーカルだから、特にボーカルという生き物の性格はよくわかっていると勝手に思っている。ちなみに我々は三人以上では集まれない。まず自我が強いのは百歩譲ってOKなのだが、その自我が歪んでいるという意識を持っている奴が少ない。したがって一対一の現場においても歯車が噛み合うこと自体稀なのに、それ以上だったらまず間違いなく歪みが出る。三つ振った賽の目が押し並べて一になることなんて、ボーカル三人が心の底から笑えてる現場に比べたら容易いことのように思う。

 十年以上前のことになるが、ボーカルだけが集まる会合に顔を出した。これはその時に、圧倒的な気持ち悪さを感じた理由についての今の解釈。

 ドラム会、ベース会というのは、よく耳にしていた。同じパートが集まって飲むみたいなやつ。ただギター会、ボーカル会というのは全然聞いたことがなかったから、声を掛けてもらった時、そんな会合が存在していたということに驚いた。詳しく話を聞けば、第一回目の試みらしく、誰かの振った旗に、数人が同意しているという状況らしかった。

 とりあえずグループラインなるものに招待され、ひとまず参加してみた。ラインを始めたばかりの私は会話に参加することなく、次々に交わされるやり取りをただ眺めていた。

『とりあえず、知っているボーカル仲間を集いましょう』

 そんなやり取りを最後に、なんとなく携帯をポケットにしまう。招待する、みたいなやり方もわからないし、そもそも仲良い奴あんまいないし。時計を見るとスタジオ練習の時間が迫っており、急足で駅に向かった。

 スタジオのある渋谷まで数駅。しかしながらポケットに入っている携帯はこの数分間で一体何度震えたことだろう。圧倒的な違和感をもち携帯を取り出し、ラインを開くとグループライン名の横にある参加人数を示す数字が「(51)」となっていた。

 待て待て、家出る時「(7)」だったはずだ。一体何が起きているんだ、とメッセージを開くと、予想以上の盛り上がりを見せていた。

『わー@@さん、よろしくお願いします!』
『え、**さんって、⚪︎⚪︎ってバンドの、**さん!? え、夢みたいです』
『そういえばこないだ◎◎さんと飲んだよ』
『自分今※※さん招待しました、みなさんよろしく』

 もう各々が誰かの話をし、それに一定数の人間が反応したり、別の話をしだしたりするもんだから取り留めがない。そもそもよく知らない人たちがよく知らない人の話をしているもんだから、俯瞰してる身からするとただの地獄。そしてなまじ自分が音楽で飯を食えていない身分だから、そこでチヤホヤされてるちょっと名のある人の発言がやたらと鼻につく。拗らせてる身からすると大地獄。

 元来大人数のこういうのが苦手なのと、大いなるコンプレックスが入り混じって特大のため息が出た。なんだか虚しくなっていると、渋谷に到着する直前、表示されたメッセージが目に飛び込んできた。

『普段なかなか言えないボーカルの悩みとか苦悩とかみんなで共有しましょう』
 おお、まじか。

 しかし、これに対して大勢が、そうだそうだと賛成の意を続々と表した。これが決定打となり、私はグループを退会した。「そういうんじゃねエし」何度も呟きながら電車を降りた。どこか釈然としないまま三時間のスタジオ練習に励み、やはり釈然としないまま深夜までのアルバイトに勤しんだ。

 翌日、仲の良いバンドマンの友人から電話があった。奴は言った。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中