同級生の企てを見破らなければ「死」。怪異の呪いと人間の悪意が渦巻く因習村を舞台に、転校生の視点から描かれる青春オカルティックサスペンス『怪異部~M県Y市の怪現象について~』【書評】
公開日:2025/10/7

【怖い場面あり、苦手な人は閲覧注意!】
世界各地で報告される、数多くの怪現象。例えば、幽霊の目撃談や物体が勝手に動くポルターガイスト、時間や空間の歪みを感じる体験など、その内容は多岐にわたる。これらの多くは科学的な説明がつかないため、真偽のほどは定かではないが、人々の好奇心と恐怖心を刺激し続けるには十分である。
『怪異部~M県Y市の怪現象について~』(さりい・B/KADOKAWA)は、そんな“怪現象”をテーマとした青春オカルティックサスペンスだ。
主人公・桜庭桜は、とある事情で「夕闇町」に転校してきた女子高生。夕闇町に住み始めてすぐに、彼女は自身を取り巻く環境の異常性に気づく。
同級生たちの名前は「生肉」「発狂」「轢死」など、揃いも揃って奇妙で不吉なものばかり。さらに、夕方になると得体のしれない“怪異”の数々が町のあちこちに出現し、住人に襲い掛かる……。
普通の学校生活を送りたいだけなのに、桜の周囲でも例にもれず超常現象が頻発。初めての友人にまで陥れられた桜は、まんまと怪異たちの標的となってしまうのだが――。
本作の見どころは、怪異による呪いを通して人間関係の機微が巧妙に描かれている点だ。
怪異の呪いの発動条件に一定のルールがあるのはこういったホラー作品のお決まりだが、本作はそこに「他人の命を怪異に捧げた者は町から出られる」という条件が設定されている。つまり、自分を罠にかけようと企てるクラスメイトの嘘を見抜かなければ、怪異の魔の手を逃れて生き残ることはできないのである。
怪異という超自然的脅威、そして人間同士の騙し合いという現実的脅威。ふたつの要素が重層的に描かれる本作では、結末がまるで予測できない驚きの展開が続く。
「一番怖いのは人間」とよく言うが、まったくその通り。怪異の恐怖の裏に潜む人間の悪意は何ともおぞましく、読者は常に二重三重の罠に警戒しながらページをめくることになる。
登場人物一人ひとりの真意を探りながら、独特のスリルを楽しんで読んでほしい。
