宮部みゆきがおすすめする「154冊」とは? 若手作家のミステリーから猫コミックまで、全部読みたくなる書評集【書評】
PR 公開日:2025/10/3

「次はどんな本を読めばいいの?」——本好きなら一度は抱く悩みだろう。絶対にハズレは引きたくないし、せっかくならば面白い本を読みたい。そんな時は有名作家が薦める本を手にとってはいかがだろうか。プロの作家をワクワクさせた本がつまらないはずはないし、意外なジャンルとの出会いもあるかもしれない。
そこで注目したいのが『宮部みゆきのおすすめ本 2020-2024-in 本よみうり堂(中公新書ラクレ)』(中央公論新社)。人気作家・宮部みゆき氏が読売新聞「本よみうり堂」に寄稿した書評を集めたこの本は、『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本 2015-2019-in 本よみうり堂(中公新書ラクレ)』(同)に続く第2弾。今回収録された書籍は154冊というから驚かされるが、各書評は新書の見開き1ページで紹介されていて実にコンパクト。ジャンルはミステリーや歴史小説にとどまらず、社会時評、海外ノンフィクション、ビジネス書、猫や俳句の本、絵本やコミックまでバラエティ豊か。新型コロナウイルスの世界的なパンデミックの時期、宮部みゆきさんはどんな本に魅了されたのだろう。書評を読むだけで思わず手に取りたくなってしまう。そんな本書の中から宮部さんおすすめの本をいくつかご紹介しよう。
そう思わされている? 『ダイエット幻想』(磯野真穂/ちくまプリマー新書)
あなたはやせたいのか、それともやせたいと思わされているのか。この本は文化人類学者である著者が、私たちの「やせてきれいになりたい」と思う気持ちの背景にあるものに迫る。
「思えば、『ありのままで』と高らかに心の解放を歌い上げて全世界の女性たちの共感を呼んだ映画『アナと雪の女王』のエルサだって、超スレンダーな美女だった。今の私たちは、「ありのまま」にさえ価値観のバイアスがかかっている。だから、やせられない自分は駄目だ―と思い詰めている貴女にこそ本書をお勧めしたいのです」
そうやって本書を紹介する宮部さんの言葉に思わずハッとさせられ、この本のことが気になってしまったのは、きっと私だけではないはずだ。
胸にしみるマンガと俳句『ねこもかぞく』(堀本裕樹、ねこまき(ミューズワーク)/さくら舎)
猫好きの宮部さんは時折猫の本を紹介してくれる。特に俳句とマンガで「家族」を描くこの本は、特に宮部さんの胸にしみるようで、「数年前、長いこと一緒にいた猫に死なれたあと、ねこまきさんの絵を見ると、いつでもどこでも泣けてしまって困った」というのだ。そんな評に、猫好きならば興味をそそられずにはいられない。じんわりした気分に浸りたい時、手にとりたい1冊。
大注目の民俗学ミステリー「領怪神犯」シリーズ(木古おうみ/角川文庫)
宮部さんは自身が属しているミステリー界の作品を紹介する時は、意識的に新人・若手作家の作品を優先して紹介している。それは、「まだ知名度の浅い若手作家の作品を宣伝する一助になれば」という思いからだそうだ。本書で特に印象的だったのは、人智を超えた危険な現象に立ち向かう役人たちの姿を描く、民俗学ミステリー「領怪神犯」シリーズ(木古おうみ/角川文庫)。小説投稿サイト・カクヨムから生まれたこの作品を宮部さんは高く評価しているようで本書の中で何度も名前を挙げている。「徹夜上等、民俗学ミステリーに新たな視点を見出した大注目のシリーズだ」なんて宮部さんが言うのだから、すぐに本屋に買いに出かけたくなってしまった。
その他の本も魅力的だ。まさか有名な映画「エイリアン3」の没になった第1稿をノベライズした『ウィリアム・ギブスン エイリアン3』(ウィリアム・ギブスン:脚本、パット・カディガン:文、入間眞:訳/竹書房)が紹介されるとは驚かされたし、全米で話題の『ザリガニの鳴くところ』(ディーリア・オーエンズ:著、友廣純:訳/ハヤカワ文庫NV)は宮部さんの評でますます読みたくなってしまった。また、宮部さんが「当時、誰かに会うたびにこの話をしていました」と語る『方言漢字事典』(笹原宏之:編/研究社)も読み物ではない事典なのに思わず手に取りたくなったし、2023年宮部さんに「本書の読者は今年一年を通して最上級の読書の愉悦を味わい得る」とまで言わせたホラー小説『をんごく』(北沢陶/KADOKAWA)にも読書欲が刺激される。
「私にとって読書は、仕事の一部である以前に、人生の大事な一部です」——あとがきに記された宮部さんの言葉が、この書評集のすべてを物語る。本を読んで得た喜びをそのまま書評にしているからこそ、宮部さんの文章は説得力と熱気に満ち、本を欲しくさせる力を持つのだろう。本好きなら必携。次の一冊に迷った時、この本がきっと頼れる道しるべになるに違いない。
文=アサトーミナミ