魚の煮つけは「マーマレード」で爽やかに! “フレンチの巨匠”三國シェフの究極の家庭料理を作ってみた!【書評】

暮らし

公開日:2025/10/8

ザ・シェフ三國の究極家庭おかず
ザ・シェフ三國の究極家庭おかず(三國清三/主婦の友社)

 三國清三シェフといえば、「フレンチの巨匠」であり、「世界のミクニ」でもある。15歳で料理人を志し、20代でジュネーブの駐スイス日本国大使館料理長に就任しました。三つ星レストランで修業を重ね、東京四谷に開いた「オテル・ドゥ・ミクニ」はフレンチの名店に。2022年に37年の歴史に幕を下ろしましたが、三國シェフの味を求めて、多くの人に愛されてきました。そんな日本を代表するフレンチのシェフが刊行したのは、高級フレンチとは正反対といえそうな家庭料理のレシピ本です。

 それがスーパーの食材を使い、簡単に作れるレシピを集めた『ザ・シェフ三國の究極家庭おかず』(三國清三/主婦の友社)。何度も試作を重ね、「誰が作っても味がしっかり決まるから、一度作ってみてください」とシェフが自信を持って勧めるレシピを80品の中から、早速2品作ってみました。

「魚の煮つけ」は基本の調味料にマーマレードを加えて

 最初に作ったのは「魚の煮つけ」。基本の味つけで、さまざまな魚に応用できるというので、晩夏から秋に旬を迎えるワラサ(ブリ)をスーパーで入手。まずは、たっぷりの湯でさっと茹でた魚を氷水に取って洗い、魚のくさみを取る「霜降り」をしました。簡単なレシピとはいえ、おいしくなるための基本がしっかり紹介されているので、“料理のキホン”を知りたい人にもおすすめです。

advertisement

 下ごしらえが終わったら、魚を煮ます。しょうゆ、みりん、日本酒など、基本の調味料のほかに「マーマレード」を入れるのがミクニ流。難しいイメージのある煮付けの調理も、マーマレードがあれば爽やかなコクが出るのだそう。このとき、付け合わせのゴボウや生姜を添えるのを忘れずに。これがまた格別のおいしさなので。

 仕上がりは、しっかり味が決まって深い味わい。マーマレードがこんなに魚の旨みを引き出すアイテムだったとは驚きです。塩味、甘み、酸味……と変化する味をゆっくり楽しむと心まで満たされました。「滋味深い」とは、まさにこのこと。

家族も驚いた「まんまるコロッケ」

 2つ目に作ったのは、丸い形が新鮮な「まんまるコロッケ」。トマトソースを下に敷くので、「いつもとは一味違うコロッケで家族を喜ばせたい!」という目論みです。スパイスに「クミン」を使うのがミクニ流。どんなふうに味が変化するのでしょうか……?

 豚ひき肉はクミンを入れて炒め、じゃがいもはバターと塩コショウでシンプルに味つけ。シェフは時短に大賛成だから、急ぐときはじゃがいもをレンチンしてもOK。さらに、トマトソースに入れる玉ねぎのみじん切りは冷凍のものをチョイス。この2つの時短のおかげで、工程が多めのコロッケの調理がグッとラクになりました。

 まんまるコロッケにバジルを添えたら、お店で出るようなおしゃれなひと皿のできあがり! クミンはインドカレーにも使われるスパイスで、パウダーをひとふりするだけでエスニックな香りがフンワリ。シンプルな味つけだから「香りで食べる」感覚でした。家族も「この丸いのはなんだ!?」と驚きながら食べてくれて、作戦は大成功!

「人生の中心になる食事」に、ほんのすこしの工夫を

 深い味わいを五感で楽しみながら、心まで豊かになるような三國シェフの料理。どれだけおいしい家庭料理に囲まれて育ったのだろう……と気になっていたら、小さい頃は家が貧しく、「おふくろの味」を知らなかったそうです。小学生の頃から家族のために夕食を作り、駐スイス日本国大使館で和食中心の料理を作っていた経験が、シェフの家庭料理の原点になったと本書の中で語っています。

 ふだんの三國シェフは、レストランで100%力を出し切るので、家ではほぼ料理を作らず「なまけている」そう。だからこそ、カット野菜や冷凍食材を使った時短料理には大賛成なのだとか。ただし「火加減や調理時間は正確に」守ることが必須で、「まずはレシピどおりに。2回目からは家庭の味に育てる」のがミクニ流・家庭料理のコツのようです。

 小学生の頃、おかずが入っていない、ごはんだけのお弁当を毎日食べていたと語っている三國シェフ。だからこそ、「食が人生の中心にあって、人の基本を作るもの」だと実感しているそうです。本書で伝えたいのは、料理を前に、みんながおいしいと言い合う毎日ということ。お金をかけなくても、作る人の愛情と、ほんのすこしの工夫があれば、食は豊かになる、その工夫を、三國シェフが教えてくれます。

調理・文=吉田あき

あわせて読みたい