【やしろあずき&ひろゆき対談】ADHDの「凸」と「凹」を生かす方法は? レールから外れて勝負した半生を語る

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公開日:2025/10/11

 学校も会社も「ふつう」ができる人が“まとも”とされがち。でも、それがどうしてもできない人もいる――。2025年3月にやしろあずき氏の著書『すごいADHD特性の使い方 人生が本当にラクになるコツ』(KADOKAWA)が刊行された。社会の中心からちょっとはみ出してしまった者たちが、自分なりの居場所を見つけ、ゆるく・強く・自由に生き抜く方法とは? やしろあずき氏とひろゆき氏がちょっとズレた場所から、人生の楽しみ方を語り合う。

  『すごいADHD特性の使い方 人生が本当にラクになるコツ』
『すごいADHD特性の使い方 人生が本当にラクになるコツ』(やしろあずき/KADOKAWA)

「まとも」に生きられないって、そんなに悪いこと?

やしろあずき ひろゆきさんとこうしてお話しできるなんて光栄です。実は僕、就職活動もまともにせずに漫画家になっちゃった人間なので…。今日はいろいろ伺いたいです。

ひろゆき やしろさんは就活しなかったんですか? それはまた思い切ったというか…(笑)。

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やしろあずき はい。正直申し上げると「働きたくないなあ」なんて思いが強くてですね…。就活では知らないおじ様方に上から評価されるのが苦手で、集団面接も怖くて辞退しちゃうこともありまして。挙句、大事な最終面接の日に寝坊してしまって、「あ、自分にはもうサラリーマン無理だな」って悟ってしまったんです(笑)。

ひろゆき 面接に寝坊ですか。それはなかなか大胆ですね…。でもそのエピソード、やしろさんらしいというか、漫画のネタになりそう。

やしろあずき お恥ずかしい限りです(笑)。もう内定出る前に就活やめちゃいましたからね。その後は「最悪実家で親に寄生すればいっか」なんてクズみたいなことも考えてました。

ひろゆき ははは! 開き直りがすごい。でも結果的にそれで正解だったんじゃないですか?無理に周りと同じ土俵に乗らず、自分の好きな道を行ったから今の成功があるわけだし。

やしろあずき そう言っていただけると救われます…。僕、普通の働き方ができないんですよ。決まった時間に出社して、同じ人と同じ空間にずっといるとか、ほんと無理で。海外行って、ポーカーやりながら原稿描いてる方がよっぽど合ってるなって思う。ひろゆきさんも大学在学中に2ちゃんねるを開設されて、かなり型破りな道を歩んでこられましたよね。

ひろゆき 僕の場合はたまたま好きな掲示板を作ったら人が集まっちゃって、気づいたらそれが仕事になっていたって感じで。最初から「こうしてやる!」と意気込んでいたわけでもないんすよね。ただ、日本の会社員的な生き方はあまり得意じゃない自覚はありました。同じ場所に毎日通って上司の指示で働くよりは、自分で仕組みを作ってしまえ、みたいな。

やしろあずき ひろゆきさんも“会社員が苦手”だったと。なんだか親近感が湧きます(笑)。そう考えると僕ら2人とも、いわゆるレールから外れたところで勝負してきたんですね。

ひろゆき そうですね。実際は生きていく道はたくさんあるんすよね。むしろ好きなことで結果を出せればそれが一番ですから。お互い、変に真面目に我慢して嫌な仕事を続けなくて良かったのかもしれないですね。

“ソトガワ”だから見える世界

――やしろさんは日本で活動されていますが、ひろゆきさんはフランスにお住まいで、お互い生活の場が違いますよね。

やしろあずき ひろゆきさんは、フランスの暮らしはいかがですか?

ひろゆき 日本とフランスを行き来しつつ、日本ではホテル暮らしだったり向こうの自宅だったりと気ままにやってますよ。リモートで完結する仕事が多いので、正直ネットさえ繋がれば国はどこでもあんまり変わらないかなという感覚です。

やしろあずき ネットさえあれば場所に縛られない、と。でもフランス生活、羨ましいです。実は僕も将来的には海外移住してみたいなあなんて考えてて…。この前タイに旅行したんですが、タイがもうめちゃくちゃ性に合いまして。

ひろゆき タイですか? 日本と随分雰囲気が違うでしょ。どんなところが気に入ったんですか?

やしろあずき 一言でいうと皆さんすごく適当でゆるいところですね(笑)。バイクに家族4人でノーヘル(※ヘルメット未着用)のまま乗っちゃったり、多少ルールに違反してたり、人と違う部分があっても気にしない。警察も細かいことは賄賂(ジョークです)次第で大目に見てくれたりして…。日本じゃ絶対あり得ないじゃないですか、そういうの。

ひろゆき まあ日本は良くも悪くも真面目ですから。みんな几帳面でルールを守る。でも裏を返せばたしかに、ちょっと融通が利かないのかも。

やしろあずき そうなんです。それこそ僕なんてズボラだから、日本のカチッとした仕組みより、多少いい加減なくらいが生きやすい気がして…。タイでは実際すごくのびのびしました。帰国するときは「え、もう日本に戻るの嫌だ!」って駄々こねたくらいで(笑)。

ひろゆき すごい気に入ったんですね。やしろさんのように独自のスタイルでやってきた人には、海外のフリーな空気が合うのかも。

やしろあずき ルールの内側で暮らすより、自分に合う外側を探すのもアリだなって思いましたね。今はネットがありますし、僕もひろゆきさんみたいにその気になれば世界中どこでも仕事できちゃうし。

ひろゆき 本当、その通りだと思います。ネット文化の恩恵で、もはや国境も垣根もだいぶ低くなって。好きな場所で好きなように生きていける時代ですよね。ただ、日本は日本で治安が良かったり、サービスが丁寧だったり、メリットも多い。要は自分にとって何が大事かでしょうね。

やしろあずき なるほど。自分に合った環境を選べ、と。ひろゆきさんに言われると説得力があります…。僕もいざとなったら本当に拠点を海外に移す覚悟で、自分の生きやすい場所を探してみます!

ADHDの「すごい」特性で生きる

――やしろさんの著書『すごいADHD特性の使い方』は、帯にひろゆきさんのコメントが掲載されています。実際内容を読んでみて、いかがでしたか。

ひろゆき 興味深く拝見しましたよ。推薦コメントを書かせてもらいましたが、ADHDの特性を強みに変えて活躍しているやしろさんの考え方やツールが詰まった良い本ですね。

やしろあずき ありがとうございます! ひろゆきさんに推薦文を書いていただけるなんて恐れ多いやら嬉しいやら…。本の内容も読んでくださったんですね。

ひろゆき もちろん読みました。やしろさん自身のエピソードが面白おかしく書かれていて引き込まれました。遅刻の話とか、請求書開封せず溜めちゃう話とか…なかなかパンチありますよね(笑)。

やしろあずき うっ…お恥ずかしい限りです! 本には赤裸々に書いちゃいましたけど、ほんとADHDゆえのやらかしには事欠かなくて…。例えば締切ギリギリになるとパニックでミス連発とか、郵便物を開けずに山積みにして気づいたら水道止められてたとか、日常茶飯事なんです。

ひろゆき 水道止められちゃったんですか?(笑) それは大変だ…。でもそういう失敗談を笑いに変えて発信できるのは素晴らしいことじゃないですか。同じ悩みを持つ人は「自分だけじゃないんだ」って安心できるし。

やしろあずき そうだと良いんですが…。僕自身、昔はできない自分を責めて落ち込んだこともありました。でもあるとき開き直って「失敗するのも才能だ」と考えるようにしたんですよ。注意散漫なのは裏を返せば発想力と創造力の源泉だ、とか。実際、アイデアがポンポン湧いて漫画のネタには困らないですし、飽きっぽいおかげで色んなことに手を出して行動力もついた気がします。

ひろゆき ADHDの「凸」(でこ)と「凹」(ぼこ)を生かしたわけだ。確か本にも「ADHDはマイナスだけじゃなく『すごい』がいっぱいある」なんて書かれてましたね。

やしろあずき でも本当に、僕みたいなのが言うのもなんですが、ADHDに限らず欠点だと思ってる部分って、見方を変えれば長所になり得るんだなって今は感じてます。社会の中では「落ち着きがない」とマイナス評価される性格でも、ネットの世界では毎日新ネタを生み出す原動力になるので。だからこそ僕は包み隠さずネタにしちゃおうと。失敗続きの人生でしたけど、それを笑い話にして発信したら共感や反響も大きくて驚きました。1200万PV超えでバズった漫画もあるんですよ、ADHDネタで。ひろゆきさんのYouTubeチャンネルでも、ADHDに関する質問がたくさん届いている印象です。

ひろゆき 1200万PV超え!? すごい…。たしかに僕のところにもよく届きますね。みんな関心あるテーマなんでしょうね。それだけ“生きづらさ”を感じている人がいるのかもしれない。

やしろあずき そうですよね。社会の中で「なんで自分は皆みたいにできないんだろう」って悩んでいる人は思った以上にいるんだと知りました。でも、できないことがあってもいいし、むしろ君には隠れた才能があるんだよというのは本当にそう思いますね。

ひろゆき いいですね。そのメッセージ、大事だと思います。

――今の社会には、同じような悩みを抱えた方がたくさんいらっしゃると思います。周りの人と違うことに苦しむ方へ、やしろさんからメッセージはありますか。

やしろあずき 僕なりにひとつだけ伝えたいのは、「たとえ社会から疎外されても、自分だけは自分を見捨てないでいてほしい」ってことですね。周りにどんなに否定されたり笑われたりしても、自分自身が「俺はダメなやつだ」って諦めたら本当に終わりだと思うんです。実際、僕も社会ではだいぶズレた人間でしたし、会社勤めも続かず発達障害もあって正直生きづらい時期もありました。でもそこで自分を卑下して「どうせ俺なんか…」って塞ぎ込んでいたら、多分今こうして漫画を描いて人前でお話しする人生にはなってなかった。

ひろゆき やしろさんご自身、辛い時期を乗り越えてきたんですね。

やしろあずき 開き直りの精神でやっていたら、意外と楽しくなってきて。「好き勝手やっても案外どうにかなるじゃん?」って。その延長線上に今がある気がします。

ひろゆき すごくポジティブですね。実際、主流から外れた場所にはそこはそこで良さがありますよね。僕も日本のネット文化を作れたのは、ある意味で社会の主流から外れて自由だったからだと思っています。

やしろあずき 主流から外れた場所にいるからこそ見える景色ってありますよね。周りに理解されない“変な奴”ほど、実は面白い世界を知ってることもありますし。まだまだ世の中にはたくさん「ハズレちゃった」けど楽しく生きている人がいますよね。ひろゆきさんとそんな方々に会いに行けたら、とても面白そうです。

写真=干川 修

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