「変わったことを狙ったデザインはカッコ悪い」バランスの良いシンプルなデザイン【ブックデザイナーの装丁惚れ】
公開日:2025/10/28
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年11月号からの転載です。

選・文:寄藤文平(文平銀座)
よりふじ・ぶんぺい●1973年、長野県出身。2000年に有限会社文平銀座を設立。グラフィックデザインとイラストレーションを中心にブックデザインも行う。手掛けた装丁に『母影』『文にあたる』『天才による凡人のための短歌教室』など多数。
変わっていない。その静けさに宿る真の革新

造本や装丁に、これといって特別「変わった」工夫があるわけではない。デザインも、ごくシンプルな規則に基づいたつくりで、派手にタイポグラフィをあしらうようなこともしていない。僕が注目するのは、その規則の運用が非常に徹底している点だ。たとえページの八割が余白になっても、そこを埋めるために規則を曲げるようなことはしない。結果として生まれた紙面には、幾何学の魅力にふさわしい知的で楽しい手応えが感じられる。つくり方は冷徹なのに、仕上がりは明朗。そのバランスのありかたに、このデザインの核心があると思う。このような本であれば、奇抜な装丁や造本も考えられたにちがいない。自分だったらきっと、何か「変わったこと」をしようと考えただろうと思う。しかし、それをしていないのはおそらく、「変わったことをしていないほうがむしろよい」、あるいは「変わったことを狙ったデザインはカッコ悪い」という了解が、デザイナーだけでなく、出版社や、それを支える読者にも共有されているからだろう。そのように成熟した見識が、「本当の意味で変わった」アイデアを、このように実現する礎になっているように思う。


写真:首藤幹夫
『EUCLID’S ELEMENTS OF GEOMETRY Completing Oliver Byrne’s work』
装丁:laiaguarro.com
Kronecker Wallis 200€
*オンラインストアにて購入可能
