ヨシタケシンスケ「何十年かかっても自分自身との相性が悪い人はいる」自身も悩み続ける著者による「お悩み相談本」《インタビュー》

文芸・カルチャー

公開日:2025/10/18

僕は「元気がないチーム」かつ「人に相談しないチーム」という厄介な人種

 ヨシタケシンスケさん

――元気があるチームは、毎日元気でいるための方法を伝えてくるので、疲れてしまいますよね。

ヨシタケ 人って成功体験しかオススメできないから、自分にはこれが効くから君もやりなさいとしか言えないんですよね。でも、その人と自分が同じ体のつくりをしているとは限らないので、いろいろな人の言葉の中から今日はこれを参考にしてみようって選ぶしかないわけです。でもそういう時に、元気がない側の実例が少ないんですよ。そういう、人が嫌になっちゃったり、世の中が醜く見えちゃったりする時に参考にするべき事例はあるに越したことはないし、自分もそういう本がほしかったんですよね。

――ヨシタケさんは、子どもの頃や若い頃の悩みとはどう向き合ってきたのでしょうか?

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ヨシタケ 僕は、元気がないチーム、かつ、人に相談しないチームなんですね(笑)。ギリギリのところまで人に助けてと言えないという、元気がないチームの中でも特に厄介な人種なんですよ。でも、そういう人たちに対して、「すぐに人に助けてって言える人ってすごいけど、図々しいなとも思うよね」みたいなことを、正直に言う人がいてもいいのかなと思うんですよね。

 僕自身、ずっとモヤモヤしているのが当たり前だったし、解決できるはずなのにできていないっていうつらさとも隣り合わせでした。でも、これはどうやら解決する・しないの話じゃなくて、脳みその仕組みや心の癖の問題だと気づいたんです。だから、モヤモヤって絶対にゼロにはならないけど、1%でも減らす方法は自主開発できるし、楽になる日もあれば、どうやっても好転しない日もある。それがわかるだけでも、もう少し気楽にモヤモヤできると思うんですよね。

――この不安は悪いものだから消さなきゃいけない、と思うとまた悩んでしまいますよね。

ヨシタケ つらい気持ちをどうするかって、「これさえ食べときゃ大丈夫」みたいなシンプルな話じゃないですからね。不安や、誰かを憎んでしまう気持ちをパワーにすることで生きていける人たちもいます。それは否定されるべきものではないということもわかってきて、それを知らなかった当時の自分に対して、そういう人も結構いるし、その気持ちを飼い慣らしていくしかないんだよっていうことは、今なら言えますね。そのような、当たり前だけど、自分では気づけないことを言語化していくことは、僕がこういう仕事をしていて、今、ノリノリでできることのひとつです(笑)。

 僕は、モヤモヤすることに「そう言われてみるとそんな気もするよね」っていうふんわりとした納得感を抱けるような形を、絵と言葉の組み合わせで提案してるんですよね。昔の自分がこれを読んだら納得してくれそうだなっていうことを考えるのが好きなんだなと、この本で改めて思いました。

――繊細さのようなネガティブに思える部分も、自分を楽しませるために使えることもわかりました。

ヨシタケ 結局、使い方次第なんですよね。長所も短所も同じ性質から来るわけだし、ネガティブな部分の平和利用の方法としては、ある程度のパターンがあるから、それを知るだけで、自分は今まで調理の仕方が悪かっただけだと気づけるんです。ただ、それも、生き方や世の中の捉え方のストーリーの一例でしかないので、こういうふうに考えてみようと思ってもいいし、日によって変えてもいい。それに気づくことが、自分や世の中を許せるひとつのとっかかりになる気がします。

――子どもからすると、親や先生からは、くよくよするなとか、人を羨ましがったらいけないとか言われるけれども、ヨシタケさんの絵本を読むと、僕はこれでいいんだと思えますよね。

ヨシタケ お父さんとかお母さんとか学校の先生は、立場上、そう言うしかないので(笑)。一方で、変なことを言うおじさんもいて、その中から選んでいいんですよね。必ずしも先生や親の言うことがあなたにぴったり来るかどうかわからないと伝えたいし、その選択肢を少しでも増やしたいですね。

「自分が好き」ということが、幸せになる絶対条件ではない

 ヨシタケシンスケさん

――「自分を好きにならなくてもわりと楽しく生きられる」という言葉はたくさんの人を導く言葉だと思います。ヨシタケさんはなぜこの考えに辿りついたのでしょうか。

ヨシタケ 自分を好きになることが楽しく生きるための近道であることは間違いないんですよ。ただ、どうしても、何十年かかっても自分との相性が悪いっていう人はいて。その人はダメなんだって言われると、僕もそうだから、そんなこと言われたくないわけです。じゃあどうすればいいかと考えたら、幸せになる条件に自分のことが好きなことって絶対に必要じゃないんじゃないか、と気づきました。どうしても自分と相性が悪い人が穏やかな毎日を送るための方法を、これからも開発し続けたいですね。

――ヨシタケさんは、自分のことを好きじゃなくていいんだと気づいてから、ぐっと楽になりましたか?

ヨシタケ いや、全然楽じゃないです(笑)。とはいえ、「もうちょっと好きになってくんねえかな」ってところにすぐ戻りますからね(笑)。でも、言ってる本人ですらうまくいってないんだよってことも大事であって。それも、人は人にしか救えないんだよっていう、ひとつの人間あるあるですよね。自分のことを好きになれないって、決して楽しいことではないんですよ。でも、無理なものはしょうがない(笑)。だからどうにか「自分が大嫌い」を普通の「嫌い」ぐらいにまで落とせれば十分です。そういうやり方のバリエーションを増やしていきたいですね。

自分も世の中も信じていない人が絵本作家になれる、それが世の中のありよう

――このお悩み相談本が画期的なのは、答えるヨシタケさん自身も悩み続けていることですよね。

ヨシタケ そうそう(笑)。そういうお悩み相談本があってもいいのかなと思うんですよね。悩みって減らないけど、似たような人たちがいるってわかって、すぐに解決しないのが悪いことだとも限らないと気づけたらいいのかなと思います。自分や人を許せるかっていう問題って、何十年コースの話なんですよ(笑)。本を1冊読んで考え方が180度変わって解決しましたなんていう簡単なものじゃない。でも、そこまで複雑なものでもないよねっていうことを、読者の方と共有していきたいです。

――ヨシタケさんは、作風からしてユーモアあふれる明るい方で、子どもたちを絵本で救っている素晴らしい心の持ち主なんですね、と言われることはないですか?

ヨシタケ そういうキャラに落とし込みたい方も多いですよ。その部分はちゃんと、何回も言っていきたいですね。

――(笑)。違いますよ、と。

ヨシタケ はい(笑)。子どもが苦手で、自分のことも世の中のことも本当は信じていない人が絵本作家になれたりするんだよっていうことのほうを言っていきたいです。子どもとうまく向き合えない人が、子育て論を言ってもいいんだぜ、人間ってそこまで大したもんじゃないよっていう。それが自分が生きてきてわかってきた世の中のありようで、一番大事な気がします。成功した人から成功の方法論を教えてもらう構造は単純だし、読みたいと思うけど、僕は書けないので。そういう本に救われる人たちがいる一方で、真逆のそうじゃないおじさんが、かわいい絵柄で世を儚み続けたっていう(笑)。それも人のありようだし、そういう世の中の姿を、絵と言葉で伝えていきたいですね。

取材・文=川辺美希 撮影=島本絵梨佳

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