日本ホラー小説大賞『ぼぎわんが、来る』の著者・澤村伊智、作家デビュー10周年!シリーズ最新作『ばくうどの悪夢』のこだわりと、待望の続編は?【インタビュー】

文芸・カルチャー

更新日:2025/10/20

●目の前のことをやってきたら10年経っていた

――作家生活の10年を振り返るとどんな気持ちですか?

澤村:とりあえず目の前のことを真面目にやってきたら、気がついたら10年みたいな感じで。10年続けたというのはこれまでの仕事歴で一番長いんですけど、ほんとに小説家の仕事が一番あっという間でしたね。もちろん単純に加齢の影響で時間を早く感じるのはあると思いますけど(笑)。ただこの分だとこの先もあっという間に時間が過ぎてしまうと思うので、目の前のことをしっかりやっていくしかないなと思っています。

――日々執筆に忙しい中で、インプットというかネタみたいなものはどうやってストックしていますか?

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澤村:特にネタ帳みたいなのは作っていませんが、それこそ子どもと遊んでいるときに見聞きしたことがネタになったりとかするので、その意味では何でもネタになるものだなと思いますね。

 子どもが小さいのでホラー映画は見る機会が減りましたが、『ウェンズデー』(Netflix)はギリギリ一緒に見られたので、やっぱり流行っているものを見るのは大事だと思いました。万が一ネタかぶりしたら最悪ですから。鬼滅も見に行きましたよ。実は『ばくうどの悪夢』を描いた後に鬼滅の「無限城編」を見たら、「魘夢(えんむ)」が出てきて焦りました(笑)。ただまあ、アプローチが違うのでいいかな、と。

――確かに今はいろいろなものが情報化されて吸収されやすくなっているし、同時代だと無意識に同じようなサブカル要素から影響を受けていたりするところもあったりしそうです…。

澤村:ただ、僕自身が子どもの頃に当たり前に触れていたようなことって、僕としてはわざわざ語るまでもないけれど意外と若い人に受けるみたいなのがちょっとあるんですよ。たとえば昔「プリントごっこ」とか家庭用の印刷機があったじゃないですか。ああいうものを小説にさりげなく組み込むと「なにそれ?」って食いつく若者は少なからずいると思うんですよね。多分知識として知っていても、どういうものなのかは具体的にわかんないだろうし。ほかにもよく子ども雑誌の付録になっていたピンホールレンズのカメラとか、そもそも今の人たちは写真を感光して作るっていう原理を知る必要もないですからね。

――確かに。あのじわっとした感覚って、書き方によってはちょっとした恐怖にも見えるかもしれないですね。

澤村:場合によってですけどね。だからその意味でネタって無限にどっからでも拾えるとも思っていて、その辺は心配していないところもあります。とはいえ何がネタになるかはわからないので、そこは楽観と悲観が両立する感じで。でもある時にそれが物語の軸でぴゅっとつながると、書ける。

――なんだかワクワクします。ちなみにやっぱりホラー作家というのは、人を怖がらせるのが楽しいんでしょうか?

澤村:どうなんですかね。ただ嬉しいですよ。本当に難しいことなので、めっちゃ嬉しいです。

――「怖い」感覚は人それぞれかもですが、ホラー作家というのはかなり多くの人の恐怖のツボをつくわけで。「この辺やったら怖いだろう」みたいな感覚について、どのくらい自覚的に書かれているんですか?

澤村:わからないですね。ただ小説を書く上では、「書かれてきたことの前提に仕掛けがある」というのが一番効くだろうとは思いますし、技術的なところでなおかつ言語化できるとしたら、多分その辺でしょうね。信じていたものを裏切るとか、そういう心理的な揺さぶりみたいなものが効果的というか……あとはもう感覚です。だから「お化けにあって怖かった」みたいな話をちゃんと怖くするのが一番難しい(笑)。

――では、怖いバケモノの造形はどうやって作っていくんですか?

澤村:昔の見たものとかを思い出しながらやっています。小説で直接参考にできるものってあまりないのですが、たとえば岡本綺堂なんかはさらっと書き流しのように見えて、かなり丁寧にフリオチをやっているので、そこはちゃんとしようかなとか思っています。あとは……やっぱり感覚ですね。

――今すごくホラーがブームになっていますよね。本を読んだり映画を見たり、人が「能動的に怖がりにいく」って面白いなと思います。

澤村:相対的に見ればホラー好きは少ないとは思いますが、大衆娯楽には違いないですからね。今、面白い作品がいっぱい出ているから盛り上がっているし、面白いからいい感じで届いているんだと思います。狭い範囲でマニアが遊ぶだけのもの、見るだけのものにはしたくないなっていう気持ちもあるので、「ホラーは怖くて面白い!」っていう人が増えるのはホラー作家として嬉しいことですね。

――そんなホラー好きは、澤村さんの作品を心待ちにしていると思います。ちなみに先ほどおっしゃっていた本作の直接の続編はいつ刊行予定ですか?

澤村:来年の3月くらいになる予定です……、頑張ります!(笑)

取材・文=荒井理恵

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