寝具店を舞台に“眠り”と恋と人生を描く! 畑野智美の最新作『宇宙の片すみで眠る方法』をみんなで立ち読みした夜ーー初のリアル開催となった「月イチ立ち読み読書の会」をレポート
公開日:2025/10/23

2025年9月30日(火)、ダ・ヴィンチWeb主催「月イチ立ち読み読書の会Vol.3」が開催された。これまでオンラインで開かれてきた本企画としては、今回が初めてのオフラインでの実施。会場には、20名を超える読書好きの参加者が集まった。
▶初のオフライン開催! みんなで一斉に、課題図書を40分間”立ち読み”
▶「睡眠」を軸に描く、お仕事小説が出来上がった背景
▶装丁のこだわりや作者像に迫る質問が続々
▶心からの感謝と、次回開催への期待を込めて
初のオフライン開催! みんなで一斉に、課題図書を40分間”立ち読み”
「月イチ立ち読み読書の会」は、課題図書を一緒に40分間”立ち読み”し、語り合うというユニークなコンセプトの読書会。今回は、なんと初のオフライン開催。
この日の課題図書は、9月26日にポプラ社から刊行された畑野智美さんの『宇宙の片すみで眠る方法』。婚約者を事故で亡くした主人公が、デパートの寝具売り場で働きながら眠れない人々と出会う物語だ。特別ゲストとして本作の担当編集者・小原さやかさん(ポプラ社)が登壇した。

挨拶を終えると約40分間、参加者全員で本を”立ち読み”する時間が始まった。各々が思い思いのスタイルで物語の世界に没頭していった。カバーを外して読む人、手に持って読む人、ゆったり腰掛けて読む人、机に置いて読む人、パソコンでメモを打ちながら読む人……。BGMが静かに流れるなか、会場は穏やかでありながら集中した空気に包まれていた。
「睡眠」を軸に描く、お仕事小説が出来上がった背景
読書タイムが終わると、ダ・ヴィンチWeb編集部メンバーが、本作のゆるやかな優しさとスリリングな展開に「続きが気になって仕方がない」と感想を述べ、作品の構想について小原さんに尋ねた。
本作は「畑野さんにお仕事小説を書いてもらったら面白いのでは」という考えから生まれたという。畑野さんはかつて手芸店で働いていた経験を生かした作品を手がけてきたが、今回はその後に勤めた寝具店での経験が作品のもとになった。「睡眠」という生活に不可欠でありながら、小説として中核に据えた作品はまだ珍しいテーマを通して、現代の読者にこそ届く物語になると感じたと小原さんは語る。
だが本作はお仕事小説ではありながらも、恋愛要素も織り込まれている。これまで女性の生き方を多く描いてきた畑野さんは、「今回も寝具というテーマを通して、一人の女性の生き方を描きたい」と考えていたという。お仕事小説という軸が決まる以前から考えていた、女性像や背景を取り入れながら、作品が仕上がったそうだ。
そんな畑野さんとのやり取りで印象的だったことについては「畑野さんは詳細なプロットを立てるのではなく、簡単な内容を決めて書きながら物語を紡ぐタイプなんです」と話した。そのため編集者である小原さん自身も、いち読者として、先の展開を予測しながら読んでいたという。また畑野さんは寝具の知識が豊富なため、話を聞いているうちに小原さん自身も睡眠を見直し、寝具を買い揃えたくなったと笑顔で語った。
小原さんが意識していたのは「物語の最初の読者」として、専門知識がない読者にも内容が伝わるようにすること。作中に登場する高級敷布団「ムートン」のような手が届きにくいアイテムだけでなく、「眠れない人が今すぐ実践できる工夫や視点も物語に取り込むことで、より幅広い読者に届く作品にしたかった」と話した。
さらに話題はタイトル『宇宙の片すみで眠る方法』が決まった背景に及んだ。本作はWeb連載を経て書籍化されたが、連載時のタイトルは『今夜も眠れない』だった。だが小原さんは、物語が完成した際に、否定系ではないタイトルの方が良いのではと感じたという。睡眠という実用的な要素を取り入れた本作を、多くの人に手に取ってほしいという思いから「眠る方法」というワードが加わり、現在のタイトルが生まれた。
装丁のこだわりや作者像に迫る質問が続々
ここからは会場の参加者からも、多彩な質問が寄せられた。まずは「睡眠がテレビや雑誌などで特集される昨今、現代人に向けてこのテーマを考えていたのか?」という問いが。小原さんは「この作品は企画会議に出した段階から老若男女の反応が良かった」と振り返った。ただし、畑野さん自身は睡眠の研究者ではないため、脳や科学的な内容には踏み込まず、実体験に基づく寝具の話を中心に書いたという。睡眠は人によって異なるものだからこそ「全ての人におすすめの方法」として書かないように気を配ったそうだ。
続いては、本作のタイトルについての質問。「片すみの“すみ”が平仮名であることの意味やこだわり」を尋ねる参加者に、他の参加者も興味深そうな様子だった。小原さんによると、このタイトル表記には畑野さんのこだわりがあり、最初から"すみ"を平仮名にする形に決めていたそうだ。"片隅"と漢字にして句読点をつけることなども試したが、「最終的にはこの表記が、一番しっくり来た」と一字に込められた想いを話した。
また、本作の魅力的な装丁に関する質問も多かった。普段から、本を”ジャケット買い”するという参加者は表紙に込められたこだわりについて、他の参加者からはカバーや帯の色、本を開いた時の仕掛けについての質問が出た。
「畑野さんの作品を読んだことのない人や、普段小説を読まない人にも、手に取ってもらいたかった」と小原さんは答えた。実際に本を手に取りながら、随所に詰め込まれたデザイナーのこだわりを紹介。表紙のイラストは柔らかいタッチで描き、夜の美しさを思わせる紫を帯に。前後の見返し(本を開いたとき、最初と最後のページの内側にある厚めの紙)は眠りの深さを感じるように色の濃淡を変え、別丁扉(本文に入る前にある、タイトルだけが印刷された1枚の紙)には透ける紙を用いた。本文の文字の配置も少し下げ、”心地よく沈むような眠り”を視覚で感じられるように......。話を聞きながら、参加者たちは自然と手元の本を開きながら「本当だ」と見入っていた。

また会場からは「編集者として最初の読者になるとき、どんな視点で作品を読むのか」という質問も出た。小原さんは「純粋に、一人の読者として読んでいます」と答えた。どこで心が動いたか、どの登場人物に寄り添えたか。時には“この人、ちょっと嫌いかも”と感じることもあるそうだ。「今回、主人公の職場に登場するある上司を”本当に嫌い!”と思いながら読んでいました」と心の内を明かすと、会場には笑いが起きた。そうした感情の揺れを手がかりに、しっくりこない部分や、より深く読みたい部分のエピソードや台詞を調整していく相談をすることもあるという。
最後の質問は、畑野さんの愛読者から。「畑野さんの描く、少し暗い女性がすごく好き」と思いを伝えると共に、作家自身がどんな人かを尋ねた。「作家さんがどんな方か、気になりますよね!」と小原さんは、作家の人物像を話す。畑野さんは、とにかくお話が面白いそう。理路整然としており、畑野さんの働く寝具店に訪れたら、つい買ってしまいたくなるほどだとか。普段あまり知ることができない作家の一面に、参加者たちは興味津々の様子だった。
小原さんは「一斉に読んでもらいながら感想を聞けるのは、少しスリリングでありながら本当にうれしい経験でした。しかもそれが自分の携わった本だなんて、最高です」と本日の感想を伝えた。温かい拍手に包まれながら、質疑応答の時間は幕を閉じた。
参加者からは「早く続きが読みたくなった」「登場人物の気持ちを想像してしまう」など作品への感想に加え、「枕を変えてみようかな」「睡眠の知識が頭に入りやすかった」など、自分の睡眠を振り返る声も多く聞かれた。物語を通して“眠り”というテーマを改めて見つめ直す、豊かな時間となったようだ。
心からの感謝と、次回開催への期待を込めて

参加者へのお土産として、KADOKAWAグループが焙煎する、オリジナルドリップバッグコーヒー2種類が参加者に手渡された。読書好きの日常に寄り添った、朝にシャキッと目覚める深煎りの「深読みブレンド」と、夜読書のお供になるカフェインレスコーヒーだ。
今回「月イチ立ち読み読書の会」に参加して、読書を誰かと共有できる楽しさを実感した。本が好きな人はもちろん、最近なかなか読書の時間が取れない人にピッタリだろう。40分という限られた時間で、思い思いのペースでページを開きながら、同じ物語を共有する。その一体感が心地よい、穏やかで特別な読書体験だった。
次回の「月イチ立ち読み読書の会」は10月31日にオンラインでの開催が予定されている。また、積読本をゆるやかに読み進める「木曜ゆる読書会」も継続して行われるとのこと。どちらも、忙しい日々の中で本を読むきっかけをつくる場として、気楽に参加できるのが魅力だ。ゆったりと本を読みたい時に、ふらりと参加してみるのもいい。
撮影・文=ネゴト / fumi
月イチ立ち読み読書の会 Vol.4

■内容:
今月は、「読書の秋」「食欲の秋」など、さまざまな“趣味”を満喫したくなる季節=秋にちなみ、「はじめたくなる1冊を見つける」をテーマに、編集部で複数の本をセレクトしました!
セレクトした本は当日のお楽しみ! 短歌、アート、ボディメイクにAIなどなど…スタッフ自身も気になる“趣味”を集めました!
1冊をじっくりではなく、複数の本を立ち読みしながら、「もっと読みたくなる1冊は?」「この“趣味”が気になるかも」といったご感想を、スタッフと参加者全員でたっぷり語り合いましょう(ご感想はチャットで募集します)。
※あえて事前に読まずに参加していただく読書会となります
■開催日時:10月31日(金)18:30~20:00
■開催場所:オンライン
■定員:なし
■参加費:無料
■その他注意事項:
後日、読書会のもようをイベントレポートとして記事化する場合がございます。また、ご参加者の許諾をいただければ、書籍タイトルとご感想を、「ダ・ヴィンチWeb」の公式Xアカウントでご紹介させていただきます
■お申込方法:下記よりお申込みいただけます。
https://tachiyomi-dokusyo-04.peatix.com/