SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第52回「親知らず」

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公開日:2025/10/27

 事態が急変したのは五日目の朝、珍しくアラームが鳴る前に起床。しかし、いつも昼前に目覚める私が朝7時に目が覚めたことより何より、ただならぬ異変は口腔内右下にあった。「痛ア」と目が開くと同時に、いや、目が開く前に声が出た。明らかに痛みがぶり返していた。おかしいなア、と首を傾げて、キッチンにて痛み止めを内服して再び就寝。その後予定通りの時間に起きるも、昼を迎える頃には痛み止めが切れて痛み襲来。しかも今度はぶり返した、とかではなく、抜歯当日より強い痛みだった。待て、これ、一体なんだ、と止まらない冷や汗だか脂汗だかが全身を覆い、猛烈な痛みに目前がくらくらと揺れ始めた。一日三回まで、と言われていた痛み止めなので、今飲んでしまうのは明らかに早い。しかし、到底耐えられる痛さではなく、呼吸もだんだん浅くなる始末。そして呼吸の度に、「うウ」だか「あア」だか「いイ」だかの情けない呻き声が、どうしても漏れてしまう。結局我慢出来ずに痛み止めを内服。そこで急に思い出した。

 抜歯前日のことだ。飲み屋で隣になった先輩に親知らずを抜歯する旨を伝えたところ、「**に気をつけろ」、「**になったら大変だから」と言われたことを。

 先輩は懸命にそれを伝えてくれていたのだが、聞いた事のないその単語に、自分とはまるで関係のないことだと感じた私は、話半分で相槌を打っていたのだ。あの時先輩は、何に気をつけろと言っていた? 何になったら大変だからと言っていた? なかなか効果の表れない痛み止めに苛立ちを覚えながら必死で頭を回すも、なんだか脳みそが動いて痛みが増しているような感覚があり、全然思考に集中ができない。それでも必死に頭を回し続けた結果、突然回路が繋がった、「ドライなんとか」だ。『親知らず ドライ』で即検索。程なくドライソケットという単語にぶち当たる。

 すぐさま『ドライソケット』で改めて検索し直すと、通常は抜歯したところに血餅という瘡蓋(かさぶた)状のものが出来て徐々に回復していくものなのだが、ごく稀に血餅が形成されず神経がむき出しになってしまう場合がある、という説明を見つけた。そしてこうなってしまった場合しばらくの間は激痛に苛まれることになる、という補足も。

 おうおう、ごく稀に、とかしばらくの間とか、人の気も知らずに平気で書くじゃん、と激痛のせいで妙なところが癪に障る不思議な精神状態。痛み止めが効いてくるどころか、時間の経過に伴って増していく痛みにじっとしていられなくなり、ただ座っていることすら困難になる。幸い夕方前まで予定がなかったため、それまでを悶えて過ごした。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中