SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第52回「親知らず」
公開日:2025/10/27
通常通りいけば明日が切開したところの抜糸の予定で、明後日はライブだが、これいけるか本当に、とからがら帰宅した玄関で思う。無理矢理に就寝を試み、辛うじて成功するも2時間経たずして唸りながら起床。激痛で涙が止まらない、長い長い夜だった。
翌日「ドライソケットになっちゃってますね」と歯医者さんに宣告され、的中した予想に私は大いに項垂れた。傷口を再び開いて削り取った骨をガリガリやって出血させ直す、再掻爬(さいそうは)という世にも恐ろしい施術を提案されたが、藁にもすがる思いだった私は恐怖を押し殺してそれを受け入れた。このまま続く長い痛みよか、きっと1時間くらいで終わるであろう恐怖の施術のが全然マシだろうとお願いしたのだが、炎症マックス状態の私には麻酔があまり効かず、この施術自体も背中全部汗でびしょびしょになるくらい痛くて、まじ大泣きだった。この夜も案の定地獄。
そしてこの視界が歪むほどの痛みは、抜歯当日からなんと二週間もしっかり続いたのでした、という感じ。
あア、文章にするとなんだか簡素になってしまう。地獄の痛みと、それと共に過ごしたあの日々をどう表せよう、自分の文章力が恨めしい。
いやはや、親知らずを抜きました、なんて話は「先週彼氏と喧嘩しちゃってさ」くらいよく聞く話なのに、隣り合わせにあるドライソケットって言葉をなかなか耳にする機会がないなんて絶対におかしい。ドライソケットになってしまう人がそもそも少ないという事実はあるにせよ、こんなにも痛いものがろくに周知されず、危険視もされていないことに多大なる違和感がある。あまり知られてないんですが実は、なんて話題に出すタイミングを考えなければいけないようなレベルの話じゃなく、ティックトックでバズった方がいいレベル。「親知らずを抜くにあたって、信じられないほどの痛みを伴うドライソケットってやつになることがあるんだって、やばくね?」って話題で竹下通りがザワザワするべき、そんなレベルの話だ。
今回の一件を通して、微力ながら声を大にしてこの真実を世に知らしめたいと強く思った。
バンドマンなら音楽にして届けてもいいんじゃないか、まで考えたが、それは違うかもしれないと今は思えているので安心してください。
ちなみに。ライブ中だけは痛くもなんともなかったです。それほどまでにライブって本当に興奮するんだよ、すごいよね。激痛下でやったライブが三本、気が付いたは人いない、はず。

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中
