やくざ者が殿様に⁉︎ 人情に厚く、おとこ気あふれる主人公の活躍が最高に気持ちいい! 一気読み必至の痛快時代小説シリーズ「旗本遊俠伝」【書評】

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PR 公開日:2025/10/27

 こんな人が上司だったらいいのに。読み手を惚れ惚れさせる宝城勇之助(ほうじょう・ゆうのすけ)は、旗本でありながら「やくざ者」という、世にも珍しい二足の草鞋を履いた若き青年である。「旗本遊俠伝」シリーズ(岡本さとる/双葉社)は、そんな快男児・勇之助の活躍を描く江戸を舞台とした時代小説だ。

『旗本遊俠伝』
『旗本遊俠伝』(岡本さとる/双葉社)
『旗本遊俠伝 【二】 姫と賽』
『旗本遊俠伝 【二】 姫と賽』(岡本さとる/双葉社)

 文政年間。旗本の次男坊・勇之助は、御屋敷勤めの下女から生まれた庶子であることから、実父が亡くなって以降、養母や異母兄にぞんざいに扱われてきた。そのため家に居場所がなく、夜な夜な盛り場に出向き「深川新地の勇さん」として、仲間と気ままで自由、時に荒っぽい「やくざ」な生き方をしていたのだが、ひょんなことから宝城家本家・千五百石の跡継ぎになってしまう。

 本家の当主・宝城左衛門尉豊重(さえもんのじょうとよしげ)は風変わりな殿様で、同じく「お行儀の良い武士」ではない勇之助を気に入り跡継ぎとして迎え入れた。勇之助もまた彼に親しみを感じていたのだが、豊重はすぐに亡くなってしまう。

 どうやら豊重は勇之助に「継がせたい悪巧み」があったようだ。後に勇之助は、屋敷内にある巨大な蔵の中に「隠された場所」があることを知って……というのが、1巻のあらすじ。

 最新刊2巻では、殿様としての仕事にも慣れてきた勇之助が、とある事件から窮地に立たされてしまう。義理の妹・お辰が、屋敷内で「色情狂の武士」に襲われそうになった際、はずみで刺し殺してしまうのだ。武家の自衛のための殺生は罪には問われない。また今回の一番の被害者は、怖い思いをしたあげく、人を殺してしまったという罪悪感まで背負わされたお辰なのだが、その殺した相手が悪かった。関口流柔術の道場を開く、大門幹左衛門の実兄だったのだ。

 大門は鍼灸の名人としても名高く、豪商や身分の高い者らから治療費をふんだんに得て、その金で武術の達人である乾分(こぶん)たちを飼い慣らし、客たちの用心棒を務める一方、彼らから得た情報をもとに「強請りたかり」を行うという、無敵の無法者集団だったのだ。

 そんな大門組の頭の兄が、宝城家の屋敷内で殺されたことは、旗本の殿様として、そしてお辰や家臣らを守るためにも、なんとしてでも隠さねばならない。だが、大門の執拗な疑念は晴れず、ついに。――というのが2巻のあらすじだ。

 本作はテンポよく物語が展開され、大変な爽快感がある。まず主人公の勇之助が非常に爽快な男だ。情け深さと厳しさを合わせ持ち、機転も利き、人の機微にも聡い。筋は通すが堅物ではない。その上、剣術も凄腕。旗本の身分でありながら、やくざ者――義理人情の世界を生きるワルという稀有な経歴を持つ彼は、28歳という若さにしては度量が広すぎる。敵も味方も「一生ついて行きたい」と思ってしまうような魅力的な男なのである。

 もう一つ、本作の爽快感は「勧善懲悪」の仕方だろう。1巻で、亡くなった豊重が残した借金が発覚した場面。座頭の金貸しである玉川勾当(たまがわこうとう)から金を借りていたが、その玉川勾当は裏で極悪非道な行いをしていた。

 さらには高い利息を吹っかけられ、返済には二十両足りない状態で、勇之助は自ら会いに行って返すと言い出す。

「平右衛門、何が起こるか知らねえが、それでも付いてくるかい?」

 楽しそうに、家来の平右衛門にこう言い放つ勇之助は、一体何をしようというのか…と、はらはらと同時にわくわくした。勇之助は結果的に、借金も返し、玉川の悪行も裁いて解決してしまうのだが、その一連の顛末が大変スカッとするので、ぜひご自分の目で確かめてほしい。

 降りかかる窮地を、予想外の行動で解決していく様はまさに痛快。最強の旗本快男児・勇之助という男の活躍に、早くも次巻が待ち遠しい。

文=雨野裾

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