「見えないもの」とともに生きる青年の世界には、一体どんな光景が広がっているのだろうか。幽玄で美しい和風ホラー【書評】

マンガ

公開日:2025/11/13

【怖い場面あり、苦手な人は閲覧注意!】

 人と妖が交錯する世界を描いた『百鬼夜行抄』(今市子/朝日新聞出版)は、作者の繊細なタッチによって、幽玄で幻想的な世界観が静かに広がり、その奥深さに引き込まれる作品だ。

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 普通の人には見えないものが見えてしまう青年・飯嶋律。彼の側には青嵐という妖魔がおり、かつて「飯嶋蝸牛」という名で作家業をしていた律の祖父との契約により、律の亡き父の遺体に取り憑き、生活をしながら律を妖の危険から守っていた。

 青嵐は蝸牛との契約により律を守っているものの、彼がすべてを解決するわけではない。物語には「人の命はいとも簡単に奪われる」という厳しさがあり、怪異への畏怖を呼び起こす。一方で、律の使い魔となる尾白・尾黒といったユニークなキャラクターたちが織りなすコミカルなやり取りもあり、「ホラー」一辺倒にならず、柔らかな読後感をもたらしてくれる。

 また、謎の多い青嵐だが、第1話「闇からの呼び声」では青嵐に契約を持ち掛ける蝸牛が「人間として生活することで人間の気持ちを知ることができるようになる」と話し掛ける場面がある。この発言は、人に関心を持ってほしいという蝸牛の願いにも感じられるが、果たして心情の変化は起きるのだろうか。

 本作は一話ごとに多彩なエピソードが描かれており、「瓜子姫の鏡」では、理性を失った人間の怖さを描き、妖と人との境界の曖昧さを浮かび上がらせている。「誰かがつけた鈴の音」「海辺の少年」など律の親戚が登場するエピソードもあり、巻を追うごとに人間関係と物語の奥行きが増していく。

 読み進めるほどに、不思議な世界と人の本質が隣り合わせにあることに気づかされる『百鬼夜行抄』。夜の静けさとともに、その魅惑の世界を味わってほしい。

文=ネゴト /

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