建築の陰に蠢く怪異を描く。設計士が遭遇した“常識外”の実話怪異譚【書評】
公開日:2025/11/15

【怖い場面あり、苦手な人は閲覧注意!】
設計士の仕事とは、建物や空間の安全性・快適性・機能性を考慮し、設計図を描いて形にする仕事である。依頼者の要望を汲み取りつつ、デザイン性や機能性、予算、法規制など多くの条件を同時に満たすには、大きな労力が必要となる。施工現場での確認や関係者との話し合いを繰り返しながら進める中で、理想通りに進まないことも多いのが現実だ。
そんな設計士の仕事をテーマとしたコミック『ある設計士の忌録』(鯛夢/朝日新聞出版)は、実話心霊誌『HONKOWA』に寄せられた体験談をもとに紡がれる物語だ。タイトル通り、日の当たらぬ“裏の仕事”の忌録がオムニバス形式で描かれている。
工務店を営む主人公のもとには時折、普通の大工仕事とは一線を画す“ブラック案件”が舞い込む。常識では説明できない、複雑怪奇な現場に出くわしたときに主人公が頼るのが、ある筋から知り合った不思議な力を持つ“先生”である。一見ただの偏屈なおじさんのようだが、その実力は本物。法外なギャラと引き換えに、「いわくつきの物件」に潜む闇を暴き出し、封じられた秘密を次々と解き明かしていく。
本作の見どころは、語られるエピソードの一つひとつが実話に基づいている点だ。土俗的な山の神の伝承や、廃墟に潜む怪異、生贄を誘い込む鳥居、塞がれた神様の通り道、封印された地下牢――。作品の根底には、固定観念を揺さぶる静かな不穏さが漂っており、読み進めるうちに、背筋がぞわりと粟立つ感覚に襲われる。この世界には人間の目には見えない何かがたしかに存在する。それは決して、おざなりにしてはならないものなのではないか。そんなふうに思わされてしまうのだ。怪談や都市伝説に興味がある人はもちろん、建築業界の裏側に潜む“闇”を覗いてみたい人にもおすすめしたい。

