10年前、一瞬のうちに娘が消えた。タイムカプセル発掘から動き出した失踪の真相と10年目の真実【書評】

マンガ

公開日:2025/11/29

 10年前、一瞬のうちに娘が消えた。『仮門 消えた少女―10年目の真実』(鳩ヶ森/KADOKAWA)は、行方不明となった少女と、残された母親が追い求める10年越しの真実を描く。「第2回 朝日ホラーコミック大賞」マンガ部門大賞を受賞した作者が描く本格ミステリー漫画だ。一度ページをめくれば、その展開に引き込まれ、一気に読み進めてしまうこと間違いなしだ。

 麻衣の4歳の娘・七海が玄関先で一瞬目を離した隙に行方不明になった。失踪から10年後、幼稚園時代に娘が埋めたタイムカプセルが出てきたことを機に、再び事件が動き始める。過去に少女誘拐の前歴があり、かつ親友に付きまとったこともある同級生の男が、娘をさらったのではないかと疑念を抱く。親友やヤクザの元カレに協力を仰ぎながら、真実を求めて奔走していく。

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 物語が始まってわずか数ページのうちに消えてしまう七海に、読者も麻衣と同じ”わからなさ”の中に放り込まれる。七海が消えた瞬間も、その理由も誰にもわからない。麻衣の人生は事件を境に止まってしまい、後悔と喪失を抱え続ける姿には胸が痛む。それでも、七海が帰ることを待ち続け、自分の足で果敢に犯人を見つけようと奔走する強さには胸を打たれる。

 本作の登場人物は多く、それぞれが七海や麻衣と関わっている。事件以前から不和があった夫とその部下、高校時代から支え合ってきた親友、お互いに秘密を抱えるヤクザの元カレ、そして七海の幼馴染である二人の男女。複雑に絡み合う人間関係の中で、誰が真実を語り、誰がそれを隠しているのか。それぞれの人物が抱く“嘘”と“傷”が、徐々に交錯していく過程からは目が離せない。

 娘が消えた夜、果たして何が起こったのか、犯人は誰なのか。物語の各所に張り巡らされた数々の伏線が後半の解決編で鮮やかに繋がっていく。結末に待つのは、驚きと静かな哀しさだ。すべての伏線が収束した瞬間、麻衣が見つけたのは失われた娘だけではなく、「自分自身への赦し」だったのかもしれない。哀しみの果てに差す一筋の光が、読者の心にも静かに残る作品だ。

文=ネゴト / fumi

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