70代“弘兼憲史流“人生後半戦の楽しみ方「『自分史年表』でセカンドキャリアを満喫!」【書評】

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PR 公開日:2025/11/17

弘兼流 人生は後半戦がおもしろい
弘兼流 人生は後半戦がおもしろい(弘兼憲史 / 中央公論新社)

 厚生労働省によると、日本人男性の平均寿命は2024年時点で81.09歳。40歳で中年を迎えると、すでに人生は折り返し地点を迎えたことになる。41歳の本稿筆者も例外なく当てはまり、目上の世代からは若輩者とお叱りを受けるかもしれないが、それでも「この先、どう生きていこうか」と切実に頭をよぎる瞬間があるのだ。

 そんな自分に刺さる一冊があった。企業社会で生きる敏腕ビジネスパーソンの半生を描いた漫画「島耕作」シリーズで知られる、漫画家の弘兼憲史さんの最新エッセイ『弘兼流 人生は後半戦がおもしろい』(中央公論新社)である。70代の弘兼さんが本書に込めたのは「人生を楽しみ、幸せを感じようではありませんか」というメッセージ。「中高年は人と比べてはダメ」「諦めて次へ、が近道」「新しきを温ねて故きを知る」など、いずれの人生訓もすべての人の心をくすぐる。

まるでウイスキーのように、加齢によって人は「円熟味が増していく」

 弘兼さんの心中には「まあいいか」「それがどうした」「人それぞれ」と、3つの言葉があるという。よからぬことがあれば、気持ちを切り替えるために「まあいいか」と諦める。開き直って「それがどうした」と前を向き、誰かと比較して嫌な感情がわいてきたら「人それぞれ」で切り抜ければ、たいていのことは乗り越えられる、少なくとも、僕はそれでやってきました、と伝える。

 本書で意外だったのは、出世のためにバリバリ働くイメージの島耕作を描いてきた弘兼さんが、自身の人生に対してやわらかく受け止めている印象があることだった。

 例えば、弘兼さんは「加齢」についてポジティブに受け止める。年々、熟成していくウイスキーのように、人も同じでエイジング(加齢)によって角が取れ、まろやかになって、円熟味が増していく、と伝えていて、自身も40歳、50歳、60歳……と年齢を重ねるのをむしろ楽しんできたという。

 年齢を重ねるにつれて、つまらない見栄とプライドが邪魔をして、新たな物事へ飛び込む機会を失う人もいる。しかし、弘兼さんは小学校から中学校へ、中学校から高校へと進学した学生生活のように、新1年生になったときのワクワク感を思い出してください、と読者へと投げかける。

生まれた当時からを振り返る「自分史年表」でセカンドキャリアを謳歌

 特に「仕事が趣味」「趣味が仕事」だと実感する人の中には、定年後に生きがいを見いだせなくなり、うつに陥る人もいる。そんな人たちに向けて、退職後の新しい人生へ向かうために、まず持っていた肩書、それに伴うプライドと見栄は捨ててしまいましょう、と背中を押す。

 その上で考えられる定年後のセカンドキャリア、すなわち「第二の人生」をどう過ごそうかと迷う人もいる。弘兼さんがすすめるのは「自分史年表」をつくってみることだ。

 自分がいつ、どこで生まれたのかにはじまり、好きだった遊びや小学校の同級生や先生のことなど、とにかくつぶさに思い出してみる。すると、すぐに自動車の名前を覚えることができた、オセロゲームは誰にも負けなかった、といった記憶が蘇り、その中に、第二の人生のヒントが隠されているという。

 実際、弘兼さんの周囲にも学生時代にギターへ打ち込み、定年退職後に仲間とロカビリーバンドを組んで精力的に音楽活動を続ける友人、都内の坂道を歩き回っていて定年退職後に著書執筆やカルチャーセンターでの講師業に励む友人もいるそうだが、何かをはじめるのに早い遅いもないと気付かされる。

 ここまでの内容に限らず、本書で伝えるテーマは多岐にわたる。エピソードはどれも、弘兼さんがふれてきた「映画」にまつわる構成になっているのもユニーク。そばで弘兼さんが語りかけてくれるような文体もあいまって、人生をふと見つめ直したくなったときに読み進めたい1冊だ。

文=カネコシュウヘイ

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