早見和真「主人公は妻夫木さんにしか演じられない」今注目の日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』原作者が妻夫木聡に託した想いとは【インタビュー前編】
公開日:2025/11/29

10月12日(日)よる9時より放送が始まった、TBS系日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』。競馬の世界を舞台にひたすら夢を追い続けた、熱き大人たちの20年にわたる壮大な物語を描いたこの作品は、その設定の斬新さや実際の競走馬、現役騎手の出演が話題を呼び、放送後公式ハッシュタグがXのトレンド1位を獲得するなど多くの注目を集めている。
今回はドラマ化を記念して原作者の早見和真さんにインタビューを実施、前後編に分けてその様子をお届けする。前編では、ドラマ化に対する想いから早見さんが考える競馬の魅力についてお話を伺った。

妻夫木さんは主人公・栗須栄治そのもの

――本日はよろしくお願いいたします。まずは、『ザ・ロイヤルファミリー』の実写ドラマ化、おめでとうございます!
早見和真さん(以下、早見):ありがとうございます。
――実写ドラマになると聞いた際は、率直にどんなお気持ちでしたか?
早見:ありがたいことに、僕は映像化される機会の多い小説家だと思います。文章でしか表現できない作品に対する憧れはずっとあり、かつては映像化をコンプレックスに感じる時期もあったのですが、最近になってようやく自分の武器と捉えられるようになりました。『ザ・ロイヤルファミリー』を刊行した時には、素直に自分が「見たいな」と思ったんですよね。すごく時間をかけて日高地方の牧場や競馬場、たとえば早朝の中山競馬場なども実際に歩かせてもらったりしましたから。そういったものが映像としてどう切り取られるのか、興味があったんです。
とはいえ、スケールは大きいし、関係各所の協力も必要で、映像化はなかなか厳しいだろうと考えていました。本当に映像化されることまで考えたらJRAの協力は必須なので、まずJRAの馬事文化賞を獲らなきゃなと。そして実際に馬事文化賞をいただいたところから映像化の企画が持ち上がったので、ではここからどうやって自分も関係者の一人として関わろうかということを考えました。
――制作サイドに何か要望を出されたことなどはありますか?
早見:今回は結構ありましたね。僕の基本的なスタンスは「求められたものに対しては応じます」という感じで、なるべくいい距離感を保つことを念頭にやってきたんですけど、今回はいろいろ言わせてもらいました。まさに、それを制作チームが求めてくれていると感じたので。
主演の栗須栄治役のキャストの話もドラマの企画が立ち上がる前に相談レベルで持ちかけられて、何人か候補をいただきました。その中で、僕はもうダントツで妻夫木さんがふさわしいと感じて。
――栗須役が妻夫木さんと発表された時は、確かに栗須のイメージにぴったり重なる部分がありました。
早見:今回で妻夫木さんとご一緒するのは三回目なんです。それはもちろん仲がいいからということではなく、突き詰めると僕の世代の石原裕次郎は妻夫木聡だと思うから。その世代の空気を体現している役者が、僕にとっては妻夫木さんなんです。自分の書く物語の主人公が、妻夫木さんが内包している空気と近くになることがわりと多くて。
その意味では今回の栗須栄治は、決して当て書きしたわけではないんですけど、どう考えても妻夫木さんでした。妻夫木さんって、いろんな想いを抱えながらも誰かのために自分を捧げられる人なんです。それって栗須栄治そのものじゃないですか。なので「可能なら妻夫木さんにお願いしてほしい」とお伝えしました。TBSの中で一回揉んでくれて、正式に妻夫木さんにオファーさせていただくことになって。ここからはもう原作者としての権限を越えちゃってるかもしれないんですけど、嬉しすぎてすぐ妻夫木さんに電話して「なるべく前向きに検討してください」とお願いしました(笑)。
「どう負けさせるか」がひとつのテーマ
――本作は、物語全体を通して人馬それぞれの「継承」が大きなテーマになっています。
早見:競馬の話を書こうとなった時に、競馬の魅力ってなんだろう? とあらためて考えたら、僕は「継承」だと思ったんです。では、何が継承される? と次に考えて、馬の場合は「血」の継承、人間の場合は「思い」の、「夢」の継承だろうと。でも、担当編集者からは「馬主という視点はおもしろいけど、あまりにも自分とかけ離れた話、関係ない世界の話だと感じる」と言われてしまって。それなら、何者でもない、一介の学生がポンと馬主になるようなストーリーってないかなと探して。その日のうちに〈相続馬限定馬主制度〉を見つけたんです。
――そのタイミングだったんですね!
早見:これ利用できそうじゃない? となって、その日のうちにもう書こうと。そこから三年半くらい取材や準備にあてましたが。

――競馬はどうしても勝負の側面が切り離せない世界だと思うのですが、そんな競馬の世界を描くにあたってテーマを「勝利」ではなく「継承」とされたことについてお聞かせください。
早見:当然、競馬にはギャンブル的な側面はあります。馬券を買う人間がいなければ、サラブレッドは今日まで生き長らえられなかったかもしれないとも思っている。でも、それ以上に僕が抱く競馬の魅力は、この馬があの馬から連なってるというような血の物語だったんです。競馬そのものにすごい物語が内包されていて、どこをどう切り取ったとしても小説は生まれるだろうと。勝ち負けの話でいえば、競馬は18頭中17頭が負けるスポーツなんですよね。作中の馬たちにもそう簡単に勝たせることはできませんでした。
――読んでいても、物語の軸となる競走馬であるロイヤルホープもロイヤルファミリーもそう簡単にレースに勝てないところが非常に印象的でした。これも勝たせないのか! これでも勝てないのか! と(笑)。
早見:いい読み方をしてくれてありがとうございます(笑)。全然関係ない話なんですけど、僕は先日『競馬場の達人』というグリーンチャンネルの番組に出演をして、べっこべこに負けてきたんです。暴力的ともいえる圧力でカメラを向けられている中、1レースから最終まで馬券を買い続けて、コテンパンにやられて。「ああ、いま問われてるな」って思ったんですよね。僕は本当に手痛く負けた時にこそ人間の本性が出るものだと昔から思っていて。その「どう負けさせるか」「負けたときにどう振る舞うか」ということは『ザ・ロイヤルファミリー』のひとつのテーマでした。
戦績表という「発明」
――本作の大きな特徴として、ロイヤルホープとロイヤルファミリーの戦績表があると思います。「どう負けさせるか」というところで、2頭の競争成績はどのように組み立てていったのでしょうか?
早見:めちゃくちゃ時間はかかったんですけどあれは一つの発明だと思っています。文学賞の選考などではあれを理由に落とされることもあるかもしれないと思っていたんですけど、杞憂でした。あの戦績表が「記号」として捉えられてしまったら批判は来ると思っていたんですけど、僕はあれを「行間」として捉えているので。ここまで物語に付き合ってきてくれた人たちが戦績表を読んだら、勝手にここに内包されている物語を読み取ってくれるだろうと期待しました。山本周五郎賞という文学賞をもらったんですけど、選考委員のみなさんはそうように認めてくださいました。
――読んでいて、最後の戦績表の仕掛けは自分の中では一番感動したところでした。
早見:あそこで泣いたって言う方もいるくらいですからね。
――競馬ファンとしては、戦績表を見てその馬の競争生活に思いを馳せることが多いのですが、それを小説で体験できるというのがかなり衝撃でした。
早見:ありがとうございます。僕、東京六大学野球の周辺の話を書いた『6 シックス』という十年以上前の小説で、実は似たような仕掛けをしていて。リーグ戦の星取表が面白いと思って。試合の描写がほぼない作品で、試合の結果はその星取表でしか明かされないっていう、本当に『ザ・ロイヤルファミリー』の布石のようなことをしているんです。当時は読者の間でも少しだけ話題になって、いつか似たようなことをやりたいなとずっと考えていた中で『ザ・ロイヤルファミリー』に成就したって感じです。
競馬が纏うイメージのカウンターとしての物語

――読んでいて、これは競馬が好きな方、かつ競馬に美しさを見出しているような方でないと書けない物語ではないかと思いました。早見先生が競馬を好きになった理由はどこにありますか?
早見:多分求められている答えじゃないけど、僕はやっぱりギャンブルとして出会ったことから始まったかなぁ。でも、その頃の僕と同じように、競馬を知らない人たちにはきっとそのイメージが先行しているだろうと。だから今回は、こんなキレイ事ばかりの世界じゃないという批判も覚悟したうえで、そのカウンターとなる物語を書きたいと思いました。いつかその負の部分も書きたいなという気持ちも隠さず持っていますけどね。ただ、今はあまりにもJRAに大切にしていただいているので、みなさんを裏切るようなことはしたくないなとも思っています(笑)。
取材・文=肥後瑞姫 撮影=川口宗道
