マツヤマイカ『チェンソーマン レゼ篇』が創作意欲の源泉に。下心で動く主人公・デンジが面白い!【私の愛読書インタビュー】
公開日:2025/12/6

ダンサー、シンガー、そしてイラストレーター。クリエイターとして多彩な顔を持つ、マツヤマイカ氏。
セルフプロデュースで作り上げる独自の世界観が熱狂的な支持を集め、SNSの総フォロワー数は驚異の約200万人を誇る。多様なコンテンツを貪欲に吸収し、それを多彩な表現へとつなげる彼女。
その創作の根幹にあるものとは。自身の感性を形作った3冊の愛読書、『チェンソーマン』(藤本タツキ/集英社)、『女の園の星』(和山やま/祥伝社)、そして『世界99』(村田沙耶香/集英社)について話を伺った。
「日本に生まれてきてよかった」映画を4回観た『チェンソーマン』
──さっそくですが、マツヤさんの愛読書を教えてください。
マツヤマイカ(以下、マツヤ):いっぱいあるんですが……今日は3作品持ってきました。藤本タツキさんの漫画『チェンソーマン』、和山やまさんの漫画『女の園の星』、村田沙耶香さんの小説『世界99』です。
──たくさんある中から、この3作品を選んだのはどうしてですか?
マツヤ:まず『チェンソーマン』は、連載当初から読んでいるすごく好きな作品で。劇場版『チェンソーマン レゼ篇』は4回くらい観ました。主人公(デンジ)が「女の子と遊びたい」とか「女の子にこんなことされたい」という感情だけで動いていますけど、今までの『週刊少年ジャンプ』作品には、そういう下心で動く主人公っていなかったんじゃないかなと思っていて。
──言われてみればそうですね。
マツヤ:そこが面白いなと思いつつ、作品としてダークファンタジーなところも好きです。そもそも人間がチェンソーになるなんてありえないし、悪魔と契約して戦うのもありえない。あと、出てくる女の子がみんな魅力的! 私は強い女性が好きなので、そういうところも刺さって、自分の中でこんなにドストライクな漫画にひさしぶりに出会ったなと思っています。
──そして映画も4回観に行っていると。
マツヤ:はい。私、同じ映画をこんなに何度も観に行くなんて初めてなんです。基本的には一度観たら満足しちゃうタイプで、2回以上観に行く人の気持ちがわからなかったんですけど、『チェンソーマン』は、見落としているところがあるんじゃないかって思うと何度も観ちゃうんですよね。それにクリエイター陣の本気度もすごい。観終わって最初に思ったのが「日本に生まれてきてよかった」でした。この作品を翻訳なしで見られることの喜びみたいなものすら感じられて。創作意欲も掻き立てられました。

「この組み合わせが正義」“眼鏡男子”ד髪かきあげ男子” とシュールさの沼
──続いて「女の園の星」についてお願いします。
マツヤ:『女の園の星』も好きなところがたくさんあるんですけど、まずは絵が大好き。それと、私は眼鏡男子が好きなのでそこも刺さります。そもそも私が眼鏡男子にハマり出したのも、和山やまさんの作品がきっかけで。『ファミレス行こ。』も『夢中さ、きみに。』も、“眼鏡男子+髪かきあげ男子”がいて。そういう作品を読んでいるうちに洗脳されたというか(笑)。「この組み合わせが正義」と思うようになったんです。
──すっかり和山さんの術中に。
マツヤ:はい。だから『女の園の星』では大好きな眼鏡男子の色気をたくさん摂取しています。あとはシュールなところも好き。シュールって難しいと思うんですよ、一歩間違えたらスベっちゃうから。だけど和山さんの作品はちょうどいいラインで。耽美な男性が登場して、かつシュールで、っていうすべてがバランスのいい作品だなと思います。
──ちなみに『ファミレス行こ。』、『夢中さ、きみに。』も話に挙がりましたが、和山さんの作品の中でも『女の園の星』をチョイスしたのはどういう理由からですか?
マツヤ:『女の園の星』は女子校が舞台で、“女子あるある”が詰まっているんですが、それがリアルなんですよね。その女子のリアルを客観的に見るのが面白くて。私の母は普段漫画を全然読まないんですが、『女の園の星』を勧めたら好きになって、新刊が出るたびに毎回「貸して」と言ってきます。それくらいマツヤ家の中でブームです。
「新刊の匂いを嗅ぐのが好き」電子ではなく“紙”を選ぶ理由
──今回、漫画は2作品ともコミックスで持ってきていただきましたが、漫画は紙で読む派ですか?
マツヤ:紙で読む派です。そもそも紙が好きなんです。気持ち悪がられるんですけど、私、読んでいるときに“紙の匂いを嗅ぐ”んです。本当に紙の匂いを嗅ぎたくて。新刊を買うと、まずパラパラって匂いを嗅いでから読み始めて、途中でも嗅いで、読み終わってからもう一度パラパラ〜って嗅いで「OK!」みたいな。小さい頃からの癖ですね。
──“紙で読む”ということ以前に、紙自体がお好きなんですね。
マツヤ:はい。あと、電子だと通知が気になっちゃったりして、なかなか集中しきれないですよね。何も気にせず没頭したいという理由も含めて紙で読みたい派です。
「相手に合わせて自分を変える」『世界99』の共感と狂気
──そして最後は、村田沙耶香さんの小説『世界99』。これを選んだ理由は?
マツヤ:私、小説は好きなんですけど、刺激のあるものしか読めなくて。途中で飽きちゃうんです。だけど、村田沙耶香さんの作品は、そもそもの概念が普通とは違うとか、違う世界が舞台だったりとか、ぶっ飛んでいるものが多くてよく読みます。

──その中でも『世界99』なのは、理由はありますか?
マツヤ:正直、これを全ての人にお勧めできるかと言われたら微妙なんですよね。私はすごく好きだけど、胸くそな表現も多いし。だけど読んじゃう。この作品は、自分がいろんな人と関わっていく中で、相手にあわせて自分が変わる。そういうものを世界ごとに分けて考えている主人公の話で。一見共感できないんですけど、読んでいくうちに、だんだん「私もこれやっているな」って思い始めるんです。そういう、人には言えない自分の感情が全部書かれていて、違う世界に触れたいときに読みたい作品です。
──先ほど『チェンソーマン』についての話の中で「創作意欲が掻き立てられる」とおっしゃっていましたが、小説はご自身に何か影響を与えていると思いますか?
マツヤ:小説では、自分にない表現を覗かせてもらっている感じがします。「自分じゃこういう言い回しはしないな」というものを発見できるのが活字であり、小説な気がするので、そういう意味では歌詞などに影響を与えている気がしますね。例えば「ペットボトルがある」という状況を説明するときに、小説だと「ペットボトルがある」とはあまり書かれないですよね。「こういうふうに表現するんだ」というのは、やはり小説でしか得られないものだと思うので、言葉を知るという意味で、好きですね。
──小説も小さい頃から読まれていましたか?
マツヤ:兄がめっちゃ読書家で、家にもいっぱい本があったんです。でもたくさん読んでいる人が近くにいるからか、逆に私はあまり読んでいなくて。けど少しずつライトノベルなどを読むようになって、中学生くらいからは小説も読むようになりました。すごくたくさん読むというよりは、面白そうだなと感じるものがあったら読むという感じです。本屋さんが好きなので、表紙買いをしたり。あと、読書好きな友達がいるんですが、その子はレコメンドがすごく上手で。その子がお勧めしてくれる小説は全部読みたくなりますね。その子も村田沙耶香さんが好きですし、江戸川乱歩の『人間椅子』もその子が教えてくれました。そういうちょっと不気味なものを読みたいときに、小説を読んでいる気がしますね。
「グッとくる」瞬間を逃さない。吸収を“創造”に昇華させる表現の軸
──そうやってさまざまなインプットをして、絵や動画、音楽などさまざまな表現でアウトプットしているマツヤさんですが、自分なりに表現するうえで大切にしている軸はありますか?
マツヤ:「グッとくる」ということ。何かをインプットしているときも、グッときた瞬間が一番、創作意欲が湧きますし。あとは、自分では絶対にできないと思う表現や感情を目の当たりにしたときに「自分だったらどう昇華できるかな」って置き換えて考えたりしています。
取材・文=小林千絵、撮影=金澤正平
<第60回に続く>
