かけおち・青木マッチョのエッセイ連載「青木マッチョの三十年史」【第4回】 「好きだったあの子/中学時代②」
公開日:2025/12/22

身体を大きくするのもそうですが、周りの目を気にし出したのが中学時代だったのかなと思います。
ちょっと恥ずかしくて言いづらいのですが、美容室に行ってみたんです。モテたすぎて。正直。
それまでは「ドラゴン」という床屋さんに、本当物心ついてから中学まで通っていたのですが、兄弟の中で1番モテていた二男が通っている美容室に行って髪を切ってもらいました。
初めての美容室で髪を切ってもらい帰った時、お母さんから「ジャニーズみたい!」と言われたのに死ぬほどモテなかったのは今でも覚えてます。今思ったらジャニーズもいろんな髪型あるし無理のある褒め方だった気がします。
家ではお母さんから「ジャニーズみたい」と言われたのに、学校に行ったら誰からも何も言われず、むしろ髪型変じゃない? と友達からいじられるの怖すぎませんか。世にも奇妙な物語じゃないんですから。
まだ美容室に関していろいろと嫌な思い出がありまして(美容室を批判する内容ではないです!)、髪を切りに行った時になんて注文すればいいか分からなすぎるんです。自分もどんな髪型がいいか分からないですし、もちろん美容師さんだって分からないしで、何聞かれても「まあ……普通に、いい感じで……」としか言えず。美容師さんに申し訳ないです。
ラーメン二郎だったら怒鳴られてるオーダーの仕方です。ラーメン二郎じゃないから怒鳴られていませんが。よかった。
なので、美容師さんになるために専門学校に通うのなら、美容室に行くお客さんにも髪型の注文の仕方とかを教えてくれる専門学校があっても良かったんじゃないですか? そこに行かせてください。合宿免許でもいいです。
あまりにも注文の仕方がわからないので、一度その美容室を教えてくれた兄に「何て言って注文すればいいの?」と聞いたことがあります。
兄は「オシャレな感じで、って言えばいいよ」と答えました。
流石の自分でも違うんじゃないかと疑問を持ちながらでしたが、いつもみたいに「普通で……」と言うよりはいいのかなと、美容室で恥ずかしそうに「……オシャレな感じにしてください……」と言いました。
するとわかりやすく「プッ」と吹かれてしまいましてね。いや、美容師さんは悪くないんですよ。でもそれでもう美容室に行くのが怖くなってしまいまして。あんなに笑ってもらえたのに嬉しくないこと他にないです。
まだまだあります。中学時代の思い出ってこんなに美容室の辛さで埋め尽くされてたっけ。
全てを諦めかけていましたが、中学の修学旅行が最後の逆転チャンスだと考えた自分は、自分の持っているインターネット検索技術を駆使して評判の良い美容室を見つけ出し、そこに理想の髪型が載ってる雑誌の切り抜きを持っていきました。
ちゃんとカウンセリングみたいなものをしてくれる美容室で、切り抜きを見た美容師さんが「あー、これはポイントパーマを当てればできますよ!」と明るく教えてくれました。
その時自分は「そうか、自分にはポイントパーマがなかったからダメだったのか! これでやっとカッコよくなれる!」とかなり気分が上がりました。ポイントパーマも何か分からないのに。
ですがもう自分はポイントパーマの虜になっており、そのあと座る美容室の椅子がもうロールスロイスの座席に見えまして。安心しきった状態で切ってもらいました。もうポイントロイス状態です。
そんなワクワクで切ってもらった結果ですが、頭の後ろは野球部が引退して3ヶ月目みたいな短さになり、前髪はパッツン、ポイントパーマも頭頂部の5センチ四方ぐらいの部分だけチリチリにされたんですよ。
もう本当衝撃で。ロールスロイスもダンプカーにぶつかったら全然負けるんだみたいな。ポイントパーマにも裏切られたしみたいな。
期待してた分、自分がお店を出る頃には憔悴し切っていて、自分の中で修学旅行行く前に修学旅行が終わったとさえ思い、2度と美容室に行かないと心に誓ったんです。
(そのあとまたドラゴンに戻りました。ありがとうドラゴン。)
そんなこともありながら、やっぱり自分がカッコつけると何かといじられる風潮があったんですよね、昔から。
それが理由で自分の中で人間としての序列ができてしまったんです。
上から「カッコつけてないけどカッコいい」「カッコつけてカッコいい」「カッコつけてなくてカッコよくない」「カッコつけてカッコよくない」になったんですよ。ダ・ヴィンチ史上最も読みにくい文章になった気がしますが大丈夫ですか?
とにかく、見た目に関しては学校で褒められることがなく、変にカッコつけるといじられるので、どうせならカッコつけなくてカッコ悪い方がいいなと思ったんですよね。まだ潔い方がいいよね、どうせカッコよくないんだからみたいな。
この頃の経験から、今でも無性にカッコつけるのが怖いんですよ。
今の服装なんて、一年中黒の無地のズボン、サカゼンで買った無地の黒のTシャツ、靴は白か黒。
そこに上着を着るか着ないかだけで春夏秋冬を過ごしていますからね。ヒルクライムもサングラス外して首を横に振るレベルです。
そんなんだから、髪の毛もセットしたことないんです。ワックスで髪型を整えた経験が30歳になってもなく、だから髪を切るときはいつも「セットしなくてもなんとかなるようにお願いします」と言っています。
中学高校時代、同級生たちがトイレの鏡で髪の毛をセットしている前を小さくなって通っていたのが今でも記憶に新しいです。
そんな中学時代に「カッコつけること」に対してかなりの嫌悪感を抱いた自分でしたが、やはり思春期なので、それと並行して恋愛観も芽生えてくるのです。
中学の頃、友達も少なく目立たない自分ではありましたが、そんな自分でも好きな人はいました。
すごく純粋そうで、元気で明るくて、話した時によく笑ってくれてクラスでも人気の子でした。1番人気とかじゃなくて人気上位みたいな。
自分の記憶だとその子とは3年間クラスが一緒で、小学校も同じだったのですがその時は喋っておらず、中学から同じクラスで出席番号も近かったこともあり、少し話すことが増えました(話すことが増えたといってももともと0の状態からだったので、一般的にはほとんど喋ってないに近いと思います)。
自分は基本的に異性と話すことがお母さんとおばあちゃんしかいなかったので、その子と話すことが超一大イベントでした。教室に蜂が入ってくるイベントなんか比べ物にならないぐらいです。
でもやはり、異性と喋るというだけでテンパってしまい上手く話せなくて悩みました。普段男子たちと話している時(数少ない)はそこそこ面白いことを言えてるつもりでも、女子と話している時は何も思い浮かばない。
今思うと、勘違いしすぎていたからかなと思います。
もうすでに実は両想いで、向こうからのポイントは既に満点なんだから、減点されないように話そうと思ってしまうみたいな。
この文章を書いていてなんで好かれてると思えるのか今の自分からしたら謎ですが、中学男子ってそういうものなんですよ。ですよね?
でもそれも中学2年の終わる頃にはコツを見つけていまして。コツと言っても、女子のことを家族だと思うようにしたんです。
いやすみません、めちゃくちゃ勘違いされそうですがそういう突飛なやばいやつの思想じゃないです。家族と話している時の自分が1番自然だなと思っていたので、その子のことを家族の誰かだと思うと自然な空気で話せるんですよ。
そうでもしないと目も見れないんで、その子に限らず女子相手だと。
女子の目を見て話すの本当大変でした。
なんかこれも言い訳ですけど言わせてください……家族構成が悪い!
男4人兄弟で、従兄弟も男が2人。親の兄弟も男だけ。叔父さんしかいない。言ったら学校以外で女性と喋る機会がないんですよ、詰んでるじゃないですか(自分以外の兄弟がちゃんとモテてたのは棚に上げ切っておきます)。
そんな環境下だったので、女性と話す時に家族だと思うということは、自分的にはもうこれしかないという発明だったんです。
その発明もあって、中学3年になる頃にはだいぶ目を見て自然に話せるようになってきました。そのタイミングでにわかに信じがたい噂を耳にします。
「○○(自分の好きな子)、彼氏できたらしいよ」
絶望すぎました。巷では木村拓哉が結婚して出勤できない女性が続出したと言いますが、この時だけは気持ちがわかりました。
だって想像できないんですもん。自分が付き合ったことないから、同じ年齢で、同じような環境で育ってきたはずの男女2人が付き合う? 理解ができません。というか付き合うって何?
デートしてる姿も、手を繋いでる姿も、近い距離で話している姿とかも想像しようと思ってもできないんですよ。今となっては大抵のことは想像できるじゃないですか。でも当時、全く想像できないという不思議な感覚だったのを今でも覚えています。
しかも相手が「こいつだけはないだろ」(お前もなという話ですが)という不良みたいなやつで……。
それまでもコンビニで絡まれたり肩パンされたりと不良に対しては嫌なイメージしかありませんでしたが、この出来事により完全に嫌いになりましたし、男女関係なく学生で付き合う人が許せないんです。助けてください。
あの子自身はすごく真面目で優等生で不良っぽい要素は全くなかったけれど、不良と付き合ったから、やっぱり自転車は2ケツとかしちゃうのかなとか、タバコ一緒に吸い始めるのかなとか、ピアニッシモとかいう細いタバコを吸って咳き込んでるんじゃないかな、その光景を見た彼氏は笑って、いい雰囲気になったりするんじゃないかな、他中の不良たちとも仲良くなるのかな、夜帰るの遅いのかな、不良は進んでるからラブホテルとか行ったりするんかな、コンビニで大人数でたむろしてるのかな、普段着もだんだん派手なジャージ(プージャーとかレゲジャー)になっていくのかな、聴く音楽も変わってくるのかな、夏休みは染めるようになるのかな、カラコンとかつけるのかな、と考えるとしんどくてしんどくて……。
自分が知っている中で、当時付き合ったりしてるの、可愛い女子と不良の組み合わせの一択だったんですけど、うちの学校だけですか?? 知らなかっただけ??
絶対自分の方が真面目だし大事にするし優しいし面白いし親とも仲良いし腰が低いし勉強もできるし店員さんにも優しく接するしスポーツもそこそこできるし誰も知らないような面白い動画知ってるしプラモデルも作れるし手先器用だしタイピングも早いし手も大きいのに……すみません後半興奮して手先の話ばかりになってしまいました。
顔なのかな、暗いからかな? いやそれだけじゃないか? 結局女子って顔と明るさでしか人間を判断できないのか? 悪いことしてるやつが女子からしたら正義なのか? カッコいいのか? と、そんな考えに陥ってしまいまして、でもその考えって大人になってから変わることなくて。
いや冷静に考えればそんなことないって分かっているはずだし分かっているつもりなんですけど、思春期の思考ってすごいもので、完全に根付いてるんですよね。脳に。
当時の考えが根付いてしまっているのに気づいた自分は、今後もなかなか女性を信じられないし付き合うことはできないんだろうなぁと思ってしまいます。
だから好きな女性のタイプはと聞かれると、「学生時代楽しい思い出がなさそうな人」って答えちゃうんですよね。相手も同じフィールドにいないと心から安心できないんですよ。気が合わない気がして。
謎の恋愛観を語ってしまいました。
そんな、文章に書いていくといろいろあったような中学時代でしたが、先日自分のもとに1件のDMが届きました。
「マッチョさんのファンになりました! 調べてみたら地元が近くて年齢も近いので、すごく親近感です! いつかお会いしたいです!」
その人、同じ中学の同級生でした。
えー、とりあえず生きます。
<第5回に続く>