12月26日公開! 映画『この本を盗む者は』キャスト対談 片岡 凜×田牧そら【インタビュー】
公開日:2025/12/26
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2026年1月号からの転載です。

本好きなら誰もが憧れる、“本の世界を体験できる”小説として大きな話題となり、本屋大賞にもノミネートされた深緑野分さん原作の小説『この本を盗む者は』が、この度待望の映画化。主役の本嫌いの少女・御倉深冬を演じた片岡凜さんと、深冬と共に本の世界を旅する不思議な少女・真白を演じた田牧そらさんにお話をうかがった。
片岡 今回声優のお話をいただき、初めて原作を読んだんです。〈熱した鉄のような太陽〉〈溶かしたバターのようにとろりと黄色い西日〉のような素敵な表現がたくさんあって、ページに付箋を貼りまくりました。私は本を読んでいて好きな表現を見つけると、「逃したくない」と思って全部付箋を貼っちゃうんです。
田牧 ひとつひとつ表現を味わいながら読んだんですね。
片岡 その分、読むのに時間がかかってしまって。ファンタジーなので想像がつかない場面も多いじゃないですか。例えば雲の上に柱があってそこに猫がいるという描写があったら、どんな場所なんだろうといちいち立ち止まって考えてしまうんです。アニメでどう表現されるのか、ワクワクしました。
田牧 私も読みながら、いろんな想像をめぐらせました。「こんな感じ? いや、あんな感じかな?」って考えながら読むのがすごく楽しくて。現実では絶対に見られないようなファンタジー要素がたくさん詰まっていたので、「これがアニメーションになったら、きっときれいだろうな。壮大な景色が広がるんだろうな」と楽しみで仕方がなかったです。
――おふたりは、声優の仕事は初めてです。不安はありませんでしたか?
片岡 私はなかったですね。声優の経験値はゼロなので、得るものしかありません。挑むぞ、という気持ちでした。
田牧 私はめちゃくちゃ緊張してました。大丈夫かなと不安になりつつも、私なりにできることを準備するしかないと思って原作と台本を読み込んで。中でも大きい壁だったのが、アニメは実写と違ってセリフを発するタイミングがはっきり決まっていること。ただ、事前に映像をいただいて練習できたので、とてもありがたかったです。
片岡 サンプルの音声がついた映像と、音が入っていない映像、ふたつを事前にいただきましたよね。絵は完成していないところもありましたけど、口の動きに合わせて「この秒数からセリフを言えば大丈夫」という確認ができました。
田牧 タイミングをはかるために台本に秒数を書き込んだり、いただいた映像に合わせて何度もセリフを言ってみたり。そういう練習をして、少しでも緊張を抑えられたらと思いました。
片岡 私は音がない映像に合わせて、スマホで動画を撮りながら声をあてる練習をしていました。
田牧 私も自分で録音してました! あとは、監督におすすめのアニメーションを教えていただいて。真白の場合、実写ではあまり使わないような言葉、「はわわー」みたいなアニメならではのセリフが多いんです。気持ちをセリフではなく擬音のように表現することもあるので、監督から教わったアニメで勉強しました。
片岡 ただ、自分が実際に発している声と人に聞こえる声は違うんですよね。それが驚きであり、発見でもありました。
田牧 わかります! 不思議な感じですよね。
片岡 いつもとは違う声の出し方でセリフを発したり、普段よりもオーバーリアクションにしたり。実写のお仕事とはまったく違うので新鮮でした。
田牧 収録は、最初から最後まで片岡さんと一緒で心強かったです。収録の合間に「こういうふうに演じて大丈夫ですか」ってお話もできました。片岡さんは、深冬ちゃんのまんまでいてくれて。一緒にブースに入ってお芝居する時も、隣に深冬ちゃんがいるって感じられて演じやすかったです。
片岡 私も安心感がありました。

ふたりが旅したいのはハードボイルドの世界⁉
――おふたりは、ご自身が演じた深冬と真白に対してどんな印象を抱きましたか?
片岡 深冬は、ちょっとだるそうな女子高生です。いつも面倒くさそうにしているけれど、ものすごく愛情深いし思いやりもあるんですよね。実は面倒見もよくて、人としての温かさにあふれていて。愛らしいキャラクターだなと思いましたし、大好きになりました。収録しながら、自分にも似ているなと思うところも。ツンデレってこういうことなのかと、ちょっとわかりました(笑)。
田牧 真白は、最初は感情の起伏があまりない子だなと思っていたんです。でも、物語が進んでいくうちにどんどん人間味あふれる子になっていって。その多面性が魅力的だなと思ったので、いろんな面を演じ分けられたらいいなと思いました。スタッフさんが気軽に相談できる環境を作ってくださったので、演技に迷った時には監督や音響監督に相談して、皆さんと一緒に真白を作りあげた感覚です。
片岡 深冬と真白の関係性も、だんだん変化していきますよね。深冬から見ると、真白はどこから来たのか、何者なのかもわからない女の子。犬になったりもするし、どこか怪しんでいました。でも、本好きな人がたくさんいる町で、深冬は本が苦手でずっとひとりで過ごしてきて。たまに近寄ってくる人がいても、それは深冬が巨大な書庫を管理する家の子だから。そんな中で、真白はずっと自分の近くにいてくれて。温かさや安らぎを覚える存在へと変化していく感じがしました。
田牧 お互いにないものを持っているから、ピタッと相性が合うんでしょうね。最初は深冬ちゃんが真白を引っ張ってくれていたけど、途中からその立場が逆転して、真白がリードするような場面が出てくるのも面白かったです。
――作中では、深冬と真白がさまざまな本の世界に入り、冒険を繰り広げます。特に印象深かったのは、どの本の世界でしょう。
片岡 「BLACK BOOK」というハードボイルドの世界が好きでした。リッキー・マクロイという私立探偵がかっこよくて。ちょっとキザで男くさいんですよね。銃で撃たれる場面があるんですけど、変な話、痛がっている顔にグッときました(笑)。
田牧 私も「BLACK BOOK」が一番好きでしたし、この世界に行ってみたいと思いました。せっかくなら日常とはかけ離れた世界に行きたいので、探偵とお話ししたり、事件に巻き込まれたりしてみたいです。
――舞台となる読長町にはさまざまな住民がいて、本の世界では彼らが登場人物として物語を繰り広げていきます。気になるキャラクターはいましたか?
片岡 皆さんそれぞれ個性が強くて、そこに存在している感じが伝わってきました。中でも気になったのは、深冬のおばあちゃん。あまりにも怖すぎて、「こんなに恐ろしいんだ。そりゃ深冬もトラウマになるよね」と納得しました。
田牧 おばあちゃん、怖かったですよね。
片岡 どうしてああなってしまったのか、おばあちゃんの人生をもっと知りたくて。きっと彼女なりの正義があってああいう人になったと思うので、その過程を見てみたいと思いました。
田牧 私は、書庫でずっと眠っているひるねおばちゃんが気になりました。まとっている空気感がすごく素敵なんですよね。真白と通じる部分があるのかなと思いましたし、もっとひるねおばちゃんのことを知りたいと思いました。他のキャラクターも、原作からは想像できない部分まで描かれているのも印象的でした。「え、こんな表情するんだ」って思わずクスッとするような場面も多かったです。

演技と小説を書くことは似ているところも?
――おふたりとも読書がお好きだそうですが、普段どんなジャンルの本を読みますか?
片岡 私はサスペンスが好きです。
田牧 私は、片岡さんとは正反対かもしれないです。家族や青春を描いたヒューマンドラマが好きです。
――最近は小説やエッセイを書く俳優も増えています。おふたりは、書くことに興味はありますか?
片岡 私は、小学校の頃からよく小説を書いていました。ずっとカタカタ書いていたので、ファイルがたくさん溜まっています。ジャンルもバラバラで、サスペンスもあれば犯罪小説も。ただ、終わり方がわからなくて、未完のままの小説もたくさんありますけど。
田牧 すごい……! 私の場合、物語をつくるのは向いてないかな……。想像しすぎて、まとまらないまま終わってしまいそうで。
片岡 お芝居をすることと小説を書くことは、お互いの助けになっているような気もするんです。小説を書いていて楽しいのは、登場人物のなにげない癖、例えばライターをカチャカチャするような手遊びを考える時。人間らしいナマっぽい癖を考えることは、そのままお芝居にも生きていますね。演じている人物が苦手な話題に触れられた時には、親指をこするように動かしたり、唇を噛んだり。その人が生きてきた過程が垣間見えるしぐさを、日常的に考えながら過ごしています。
――最後に、本好きの『ダ・ヴィンチ』読者に向けて映画の見どころをお願いします。
片岡 本が好きな人なら、「本の世界に入りたい」と思ったことがありますよね。この映画では、そんな本好きの願望を叶えてくれます。ジェットコースターに乗っているような感覚でいろんな物語の世界を体験できるので、最初から最後までワクワクしながら楽しめるはずです。ぜひご覧ください。
田牧 私のおすすめは、原作を読んでから映画を観ること。同じ本を読んでも、人によって想像する世界は違うはず。それぞれの世界観を思い描いたうえで劇場に行き、「あ、映画ではこうなるんだ」と楽しんでいただけたらと思います。
取材・文:野本由起
撮影協力:角川武蔵野ミュージアム

かたおか・りん●2003年、群馬県生まれ。22年、優里のMV『レオ』出演で女優デビュー。同年、『石子と羽男—そんなコトで訴えます?—』でドラマ初出演。その後の出演作に『虎に翼』『海に眠るダイヤモンド』など。

たまき・そら●2006年生まれ。11年、ドラマ初出演。最近の出演作に『いつか、無重力の宙(そら)で』『I, KILL』『スカイキャッスル』など。NHK『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』にレギュラー出演中。
映画
2025年12月26日(金)公開
『この本を盗む者は』
原作:深緑野分『この本を盗む者は』(KADOKAWA刊) 監督/コンテ/演出:福岡大生 構成/脚本:中西やすひろ キャラクターデザイン/作画監督:黒澤桂子 キャスト:片岡 凜、田牧そら、東山奈央、諏訪部順一 ほか 配給:角川ANIMATION
©2025 深緑野分/KADOKAWA/「この本を盗む者は」製作委員会

原作
『この本を盗む者は』
(深緑野分/角川文庫)902円(税込)
巨大な書庫「御倉館」を管理する一家に生まれながらも、本が嫌いな高校生・深冬。ある日、御倉館の本が盗まれたことから呪いが発動し、町は物語の世界に飲み込まれてしまう。不思議な少女・真白と本の世界を駆け巡る冒険ファンタジー!

ふかみどり・のわき●1983年、神奈川県生まれ。2010年「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。著書に『戦場のコックたち』『空想の海』など。
