「成瀬ほど売れる作品は書けない、と悲観する気持ちも今はある」成瀬シリーズがついに完結! 京大進学後のスーパー主人公のキャンパスライフは?《宮島未奈インタビュー》
更新日:2025/12/10
最後は滋賀に戻るんかい、ってオチをつけた最終話

――そして最後には滋賀に戻ってくるわけですが……。「琵琶湖の水、止めるぞ」っていうミーム化しているものをおもしろがりつつも、ちょっとけん制するような雰囲気が、宮島さんらしいなと思いました。何かを過剰に美化したり貶めたりしたくない、という矜持が感じられるというか。
宮島:そうなんですよ。坪井が言っていたように「そう言いたくなるくらい怒りが沸点を超える」ってことだと思うから、否定したくはないんだけれど、明治時代に琵琶湖から京都に水を引こうなんて一大工事を発案したことも、実際にやり遂げたことも、ものすごく尊いことだと思うので、安易に言いたくない気持ちもあって……。成瀬ならきっと「琵琶湖はみんなのものだ」って言うだろうなと思いながら最終話の「琵琶湖の水は絶えずして」を書きました。京大の話に見せかけといて、けっきょく滋賀に戻るんかい、っていうオチつきで(笑)。
――その琵琶湖疎水のイメージが、滋賀と京都でそれぞれ出会った人たちを成瀬が繋いでいく姿に重なって、すごくよかったです。
宮島:ありがとうございます。かれんも登場させることができましたし、最終巻のしめくくりにはふさわしかったんじゃないかなと思います。語り手も、島崎ですしね。まだまだ書こうと思えばいくらでも書けると思うけど、いったん、三部作で締めるのが美しいんじゃないかなと思ったし、この先のことはみなさんに想像して楽しんでもらえればいいかなあ、と。
――その潔さも、成瀬に通じるなと思います。もう本当に、「そういう子なので」のお母さんと、島崎と成瀬のラストに私はいちばん泣いたので、とにかくみなさんに読んでほしいのですが……この先は、どんな作品を書くご予定なのでしょうか。
宮島:成瀬と真逆のドロドロした恋愛を書きたいんですけど、成瀬をきっかけにたくさんの子どもたちも私を知ってくれたので、あんまりよくないのかなあと考えたりしています。あと、この先どんなに頑張っても、成瀬ほど売れる作品は書けないだろうという悲観した気持ちも、今はあって。
――そんな……! と思いますが、どういう状況にあっても人は思い悩み生きていくのだ、という最初のお話にも繋がりますね。
宮島:そうなんですよね。『婚活マエストロ』(文藝春秋)も『それいけ! 平安部』(小学館)も、多くの方にお読みいただいているけど、成瀬の陰に隠れてしまっているのが、さみしい。ただ最近、私はきっと「誰かと誰かが出会って、思いもよらぬ道に転がっていく」ことを描くのが好きなのだなあ、というか、そもそも小説というのは、そうした出会いを描くものなのではないか、と考えるようになっていて。誰のことも傷つけない、心がはずむような出会いの物語を書いていけたらいいな、とは思います。
取材・文=立花もも 撮影=島本絵梨佳

