水上恒司×山下美月で映画化も話題!戦死者から届いた日記から始まる不可解な事件『火喰鳥を、喰う』【書評】

マンガ

公開日:2026/1/11

火喰鳥を、喰う』(倉一ひや:漫画、原 浩:原作、「火喰鳥を、喰う」製作委員会:企画協力/KADOKAWA)は、ミステリーホラーであると同時に、SFの観点を併せ持った作品である。2025年10月には水上恒司×山下美月×宮舘涼太(Snow Man)で映画化もされた。

 本作の舞台は信州の田舎。主人公・久喜雄司のもとに、一冊の日記が届くことから物語が始まる。それは太平洋戦争末期に戦死した大伯父・久喜貞市が書いた日記で、戦時中に出征したニューギニア島での生存記録が綴られていた。

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 米軍によって日本軍はほぼ全滅し、追い込まれた状況の貞市の日記は「火喰鳥を見た」「火喰鳥を喰いたい」など火喰鳥への執着を綴るところで途絶えていた。「火喰鳥」とは、ニューギニア島に生息する実在の鳥「ヒクイドリ」のことであるが、本作に登場するものは生物学的な存在だけを指していないことは、倉一ひや氏によるおどろおどろしい描写が物語っている。

 そして、日記が届いた日から周囲の人々が次々と異様な言動を見せ始め、平穏だった日常は崩れていく。戦時中の貞市を知る者が過去の出来事を違う形で思い出したり、生きていたはずの雄司の身内が死んでいたり……と、人々の「記憶」や「事実」が微細に揺らいでいくのだ。

 現実の地続きだと思っていたはずの日常が、じつは脆く不確かな基盤の上に立っているのだと我々読者に突きつけてくる。この“世界の歪み”を丹念に表現し、雄司たちが足をすくわれる感覚を読み手にも共有させることでこの物語は、ホラーの恐怖だけでなく、SF的な「世界の揺らぎ」へと静かに遷移していく。

 また、本作は根本的なテーマとして「人の執念」を描いている。貞市が日記に記した「火喰鳥を喰いたい」という言葉は何を食ってでも生き延びたいという「生」への渇望であり、彼の執念を皮切りに登場人物たちが胸中に抱える執念が垣間見えてくる。

 果たして最後に残るのは、一体誰の執念なのか。答えを掴むためにも、ページをめくる手を止めないでほしい。

文=ネゴト /

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