子犬育成ゲームで飼い犬に「おっぱい」と名付けたあの頃。話題の文筆家は、変な自分にどう折り合いをつけたのか【伊藤亜和インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/12/27

私の家族にできた人間はいないけれど、一人ひとりが面白いメンバー

──この本には、伊藤さんの子ども時代の写真もたくさん収録されています。担当編集者の提案で写真を載せることになったそうですね。

伊藤:小さい頃の写真が衣装ケース一杯分くらいあって。ほんの一部をお送りしました。

──どういう基準で選んだんですか?

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伊藤:ただ、ごそっとつかんだだけです(笑)。その中から47枚を選んでもらいました。

──ご自身で写真を見返して、どう思いましたか?

伊藤:私は家族にまつわるエッセイを書いていますが、「仲がいいですね」「ハートフルで愛にあふれた家族ですね」と言われると、それに反抗したくなる気持ちがあります。でも、写真を見返すと「うーん、これで愛されてないとは言えないな」と思いますし、そのことへの恥ずかしさもあって。「物を書く人間たるもの、複雑な幼少期や込み入った事情がなければならない」という意識が自分の中にはあるけれど、実際の私の家族はいろいろあっても仲は良くて。家族だから好きというよりは、一人ひとり人間として面白くて気に入っているんです。できた人間はいないんですけど、面白いメンバーではあるのかな、と。

──確かに、どの写真も見るからに愛情があふれています。特にお気に入りの写真は?

伊藤:おじいちゃんに抱っこされている写真が一番好きです。あ、これ(と一発でページを開く)。お父さんはいましたけど、あんまり“お父さん”という意識はなくて。おじいちゃんがお父さんみたいにずっと一緒にいてくれました。

──お父さんについては、2022年にnoteに発表したエッセイ「パパと私」で書いており、伊藤さんが世に出るきっかけにもなりました。普段は優しいけれど怒ると怖いセネガル人のお父さんについては、複雑な思いがあるのでしょうか。

伊藤:noteに書いた出来事は10年以上前のことなので、父がどうこうというよりは私が若かったんでしょうね。複雑な心境もありましたが、お父さんのこと、普通に好きだったと思いますよ。3日前に10年ぶりに会ったんですけど、子どもの頃の私がお父さんに仕事に行ってほしくなくて、お父さんの靴下を隠してたという話を楽しそうにしていました。怖いと思うようになる前は、優しくて好きなパパだったと思います。

「怒られたくない」という気持ちが強くて……

──伊藤さんは「変な奴やめたい」で、〈私の変はどこからきているかというと、おそらくは「真面目」から抽出されている〉と書いています。ご自身の性格をどのように認識していますか?

伊藤:真面目さについてより深く考えてみると、例えば壇上で校長先生が怒っていることにいち早く気づくような子どもでした。みんながうるさくして、壇上の先生がじっとしていることにすごく早く気づくけれど、「静かにして」とは言えずにキョロキョロしている。そういう不穏な空気をいち早く察知し、それゆえに回避しようとする性質が強かったと思います。

──それはどういう心情なんでしょう。

伊藤:怒られたくなかったんでしょうね。怒られるのは、いまだに苦手です。4、5歳の頃に「そこ、触らないでね」と言われたこともずっと覚えています。人に注意されることにまったく免疫がないんです。

──小学校の頃には「それ、やっちゃダメだよ」と言われることをする子が必ずいますよね。そういう子たちのことは、どんな目で見ていましたか?

伊藤:「メンタルが強いな」と思っていました。「なぜダメだと言われたことをやるんだろう」って。これは明らかに私の考え方の悪い癖だと思うんですけど、例えば「静かにしてね」と言われただけで、自分のすべてを否定された気持ちになっちゃうんです。少し言われただけでも心が折れちゃう。大人になった今もそうで、直さなきゃいけないとは思うのですが、なかなか直りません。

──かといって、エッセイを読む限り、自己肯定感が低かったり、「私なんて」と自虐的に考えたりするわけでもありません。自分の軸はしっかりある気がします。

伊藤:どうなんでしょう。「怒られるかもしれない」と思うことはやらないのですが、例えば道端の虫を助けたり、みんながまき散らしたゴミを拾ったりする行為はやらないと気がすまないんです。ただ、その場面を人に見られたくなくて。いい子ぶってると思われるのも嫌だし、褒められるのもなんか嫌なんですよね。

──真面目と言えばそうかもしれませんが、それだけではない何かがありそうです。

伊藤:掘り下げてみると、真面目とはまたちょっと違うのかもしれないですね。強迫的というか(笑)。何かに追い立てられている性格なのだと思います。

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