SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第54回「恥部」
公開日:2025/12/27
先日、目の前で友達が全裸になった。
もうこれはバンドマン界隈では何も珍しいことではなく、幾度も幾度も目にしてきた光景である。昨今の若いバンドマンがこのようなことをやるとはあまり思えないが、私にとってバンドの打ち上げや飲み会ではお馴染みの光景である。
しかもこれらはあくまで自発的に行われる。先輩が後輩に無理にやらせるという様なことはなく、あくまで自発的に脱ぐ。これに一体どの様な心理があるのか到底不明だが、飲みが深くなってくると誰か一人はパンツを下ろしている。全くもってくだらないし、デリカシーに欠ける。そこに誰が居ようが割とお構いなしに行われる下品極まりない行動には、正直閉口してしまう。私はこの様な品性を著しく欠いた行動が大嫌いだ。
と、思いたいのは山々なのだが、先日の私は、全裸で側転をする友達を見て、立ち上がれない程笑っていた。
何故なのだろう、知性の欠片もないこの行動の、一体何がこんなに面白いのだろう。私も四十歳を目前に、様々な経験をして、色々と考えてきたつもりである。人が人たる所以を考えたり、自分を貫くということの是非に思いを巡らせたり、経験を重ねた日々の中で、たくさん考えながら生きているというのに。それに加え、人が集まれば空気を読むこともあえて読まないことも出来る様になったし、何をしたら人は嬉しい顔を見せてくれて、何をしてしまったら人が傷ついてしまうのか、そもそも人が歓ぶってなんだろう、って、そんなことまで割としっかりめに思考してきた自分であるのにも拘らず、だ。側転を止めた友達が全裸で壁倒立をビシッと決めているその様を見て、うまく息が出来なくなるまで笑っているだなんて。己が、恨めしい。
だからその理由をお風呂に浸かりながら考えてみたのだ(裸だったからかな)。やはり恥部はあっけらかんとひけらかすと、不思議な攻撃力が生まれるのかもしれないという結論に行き着いた。コンプレックスや引け目になる部分もそうだ、陰鬱な空気を孕めば腫れ物になるが、晴れやかに、然もありなんと表面化することが出来ると、それらは強力な個性や武器となる場合が多い。
すなわち、普段は自分自身が、はたまた他人によって隠されているタブーとされる部分を晴れやかに、然もありなんと表に出されると、あらゆる思考のプロセスをすっ飛ばすパワーが生じるのだろう。結果ありとあらゆる思考が強制的に断絶され、気が付いた時にはもう笑ってしまっている、と。そういうことな気がする、うん。
あと、ずっと思っていたそもそもの話をしていい? やっぱりち〇ち〇って、パーツとしてすごく面白くない?
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中
