「孤独死」は家族と同居していても起こりうる――検視官が見た遺体が語りかける多様な「死」のリアル【書評】

社会

PR 公開日:2025/12/31

検視官の現場―遺体が語る多死社会・日本のリアル
検視官の現場―遺体が語る多死社会・日本のリアル(山形真紀/中央公論新社)

検視官の現場―遺体が語る多死社会・日本のリアル』(山形真紀/中央公論新社)は、検視官を経験した著者が、実際に対面した遺体のケースについて紹介すると共に、そこから見えてくる現代の「死」についてリアルに描いた一冊である。

変死事案の遺体・現場を調べ、事件性の有無を判断する警察官

 検視官とは、変死(=不自然な死)事案とされる遺体や現場を調べ、その死に事件性があるかどうかを判断する警察官のことである。監察医や法医研究員とは異なる目的を持つ公務員であることを、読者に説明してくれるところから本書は始まる。

 犯罪による死亡なのかどうかを判断するということは、自然死を偽装した犯罪を見抜く役割を背負っている。また、遺族にご遺体を引き渡すプロセスの一部を担っているため、スピードも求められる。判断の精度とスピードの双方が求められる難度の高い仕事だ。本書には、そんな現場の緊張感が手に取るように伝わってくるエピソードがたくさん盛り込まれている。

 また、検視官の視点を通して日本の社会問題が透けて見えてくるところも興味深い。高齢化が加速し続ける日本は、出生数より死亡数が多い“多死社会”に突入した。検視官が扱う遺体の数は年々増加し、現場は過密なスケジュールに追われている。

家族と同居していても、人知れず死亡している人も

 高齢化社会における死の問題と言って読者がイメージしやすいのは、誰も看取る人がおらず、ひっそりと孤独死を迎えるパターンかもしれない。しかし、たとえ家族と同居していても気づかれないこともある。老老介護の末に認知症を患ったほうが残されるパターンや、家庭内別居状態で互いの生存すら確認していないパターン。検視官が見た遺体とその遺体があった現場からは、現代家族の在り方や課題が見えてくる。

 さらに、本書では事故の種類や死因によって「どのような対応が必要か」「どんな事件性が想定されるか」といった独自の視点を学べる。特に印象深かったのは、難度の高いケースを乗り越えるエピソードの数々だ。多数の犠牲者が出やすい火災現場で、燃えた遺体や現場からどのように事件性を見抜くのか。原形をとどめないことが多い電車への飛び込みにおいて、自殺であることをどう判断するのか。判断が難しい状況でも諦めずに真実を追う姿勢に、この仕事の過酷さと尊さを感じずにはいられなかった。

「自分自身がどう死を迎えるか」という問いにも直面した。死んだ自分を見つけてくれる人は誰だろうか。早期に発見されるだろうか。そこに明確な答えがないまま死を迎えれば、きっと検視官に手間をかける遺体となるだろう。本書の後半には、誰もが安心して死を迎えられる社会に向けた法整備の必要性などにも触れられているが、まずは自分自身がすこやかに、そして誰かに見守られて老いる人生をデザインすることから始めてみたい。「死にざま」をプロの視点で読み解き、「生きざま」について読者が考えられる一冊だ。

文=宿木雪樹

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