突然の失踪から2年後…奇跡的に生還した愛犬――「あれは、さようならの練習だったの?」愛犬との2度の別れを描く、台湾発のベストセラー絵本【書評】
PR 公開日:2026/1/28

ふわふわなあの子と別れた悲しみはずっと消えない。あの背中を撫でることも、ともにお散歩に出かけることも二度とできないのだと思うと、それだけで苦しい。だけれども、この本を読んでその痛みが少しやわらいだ気がした。一緒に過ごした日々の記憶は永遠に消えることはないのだと気づかされたから。それにあの子は見えないだけで今もきっと近くにいるに違いないと信じられたからだ。
愛犬家、そして、ペットとの別れを経験したすべての人に救いを与えてくれるのが、台湾のベストセラー絵本『さようならの練習』(林小杯:作・絵、一青窈:訳/ポプラ社)。作者の実体験をもとに、愛犬との2度の別れを描き出したこの作品は、読めば胸に温かいものが広がっていく。生き物と暮らす喜びと別れ、命の尊さを優しく描く感動作だ。
〈私〉の暮らしにはいつもそばに愛犬ビビがいた。けれど、台風が近づくある日、ビビは突然いなくなってしまう。
「一体ぜんたいどこに行っちゃったんだろう?
台風ってなんかちょっと心配だしさ」
「まだ覚えてくれてるかな? 私のこと」
「まぁ……ビビが元気ならそれでいいんだけど」
どんなに探しても見つからず、少しずつビビのいない日々を受け入れていくが、頭の片隅にはいつだってビビがいる。そして、2年が経ったある日、ビビは奇跡的に帰ってきた。だけど、歩ける距離は短くなったし、なんだか疲れやすくなったみたい。やがて、夢に現れたビビが〈私〉に語りかけてくる。




この絵本は鉛筆をベースに描かれ、消しゴムで消した線や絵をかすかに残したままで、紙面のほとんどは単色。シンプルなのに繊細で美しい絵は私たちの想像力を掻き立て、すぐそばにビビの存在を感じさせてくれる。歌手・一青窈が翻訳を担当した文は、詩的で軽やかで、絵と合わせて読めばつい感傷に浸ってしまう。特に、大切な“家族”を失った経験がある人は、ビビの姿に、自分の大切な存在を思わず重ね合わせてしまうに違いない。
2年の時を経て帰ってきたビビ。しかし、再び別れの時はやってくる。2度目の「さようなら」が近づくビビと〈私〉の会話にどうして涙を堪えられるだろうか。ビビは、一度姿を消すことで“さようならの練習”をさせてくれた。そんなビビが2度目に姿を消した時、〈私〉はどんな風景を見たのか。もちろん悲しみは消えない。だけれども、モノクロだった世界に少しずつ鮮やかな色が重ねられていく。作者の気持ちの変化を感じる中で、私たちは気づかされる。別れとは、二度と会えないことではない。目の前から姿を消したって、存在のすべてが消えたわけではない。だって、街のあちこちに、家の片隅に、確かにあの子はいるのだから。
誰にだって別れはやってくる。それはいつだって突然だ。もし今も、あの子の名前を呼びたくてたまらないなら、もし思い出すたび胸が締めつけられるなら、この本はあなたのためにある。たとえ前を向けずにいたとしても、この本を読み終えた時、世界の色がほんの少し元に戻ったことに気づくはずだ。じんわりと心に沁みるこの1冊を、あなたの傍らにもぜひ。
文=アサトーミナミ
