「私が描きたいものを絶対に否定しない。だから、どんな意見も言えるんです」『家が好きな人』著者、初めての作品集【井田千秋×担当編集インタビュー 後編】

マンガ

公開日:2026/1/25

自分が何を好きなのか、自己分析

──『おさまる家 井田千秋 作品集』は、井田さんの約10年の歩みをたどる1冊になりました。完成した作品集をご覧になっての感想は?

井田:制作中は、自分が何を好きで、何を描きたかったのか、あらためて自己分析する時間だったなと思います。「私はこういうものが好き」とわかっているつもりでしたが、古い作品のことは意外と忘れていることも多くて。「あ、こういう表現好きだったな」と再確認したり、逆に「こういうのが好きなところは変わってないな」と感じたりしました。

──ずっと変わっていない部分、逆に変わったなと感じた部分はどこでしょう。

井田:やっぱり家の中を想像して絵にすることは、すごく好きだなとあらためて思いました。これはもう、一生続けるでしょうね。

 その一方で、世界観は少し変わったように思います。最近は『家が好きな人』を作ったことで、より現実に近い、今の生活と地続きの空間を描くのが楽しくなっていましたが、初期の作品は童話風の世界観で何でもあり。「そうだそうだ、こういうのも好きだったな」と思い出しました。

 それもあって、作品集の描き下ろしマンガでは、かつての作品のエッセンスも取り入れています。『家が好きな人』のようなワンルームの賃貸マンションも想像しやすいですが、室内に階段があったり天井が少し高かったりする、少しだけ変わった家にしました。

──収録された2編の描き下ろしマンガのうち、特に「ここであるどこか」はこれまでと違う広がりを感じました。そのあたりは意識的だったのでしょうか。

井田:『家が好きな人』のように、生活を覗き見るような描き方はこれからもやっていくと思います。ですが今回は、家という空間を妄想する楽しさという原点に立ち返り、その魅力を伝えるアプローチをすごく考えて。同じことだけでなく、新しい表現方法にも挑戦したいと思ったんです。まだ自分の中で「こうです」とはっきりしたものは見つかっていませんが、その模索の過程で「ここであるどこか」が生まれました。

 『おさまる家 井田千秋 作品集』より
『おさまる家 井田千秋 作品集』より

鎌倉:描き下ろし2編のネームのうち、「まるおさんの家」は『家が好きな人』に近いテイストでしたが、「ここであるどこか」は今までにない井田さんの新たな一面が見えてきたと感じました。挑戦しているけれど無理がなくて、すごく面白かったです。それに井田さん、実はホラーもお好きなんですよね。

井田:大好きなんです。

鎌倉:「なるほど、そういう要素を落とし込んでくださったのか」と思いました。『家が好きな人』とは種類は違いますが、井田さんの“好き”が詰まっているのかなと思って、私はとてもうれしかったです。

井田:私は不思議体験談を聞くのが好きで、そういったお話も描けたら楽しいだろうと思いました。とはいえ、読者さんが求めているのは『家が好きな人』のテイストですよね。「こういうのじゃなくていいんだけどなぁ」という感想が来るイメトレもしています(笑)。

 でも作品集でこれまでを振り返りつつ、最後の描き下ろしで「これからもまだいろいろやろうと思ってます」という意思表示として、ちょっとした変わり種を盛り込んでみました。

──今後、こういった方向性の作品も描いていく予定ですか?

井田:ホラーが描きたいわけではないんですけど(笑)。これからもきっとお家はモチーフにするし、自分で考えた家の様子をマンガで観てもらうことはずっと続けたいと思っています。

 ただ、『家が好きな人』はストーリー性がほとんどない作品だったので、これからはもう少しページ数のあるもの、ストーリー展開のあるものにも挑戦してみたいですね。

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