絶縁した姉に、実は子どもがいた。死後に届いた荷物が解き明かす、自由奔放に生きた姉の「言えない本音」とは 『天国からの宅配便 時を越える約束』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2026/2/10

天国からの宅配便時を越える約束
天国からの宅配便時を越える約束(柊サナカ/双葉社)

 人は知られざる一面や言えない本音を抱えながら、天に旅立っていくことも多い。だから、身近な人の最期には驚きや予期せぬ感動で胸がいっぱいになることもある。

 もしかしたら、私たちは死を通して初めてその人のことを本当に分かることができるのかもしれない。小説『天国からの宅配便 時を越える約束』(柊サナカ/双葉社)は、そう感じさせるヒューマンストーリーだ。

 物語の肝となる“天国宅配便”は、依頼者から預かった荷物を死後に届けるというサービス。本作ではある日突然、予期せぬ人物から天国宅配便を受け取った人々の様々な心境が丁寧に描かれている。

 死後の世界をテーマにしたヒューマンストーリーは感動が前面に押し出される展開であることも多いものだが、本作はそうではない。登場人物たちはみな天国宅配便に対して十人十色な反応を見せ、現実味ある感情を露わにする。

 例えば、自分のSNS投稿がきっかけで行きつけの食堂が大盛況となった高2の女子生徒は複雑な気持ちで天国宅配便を受け取った。なぜなら、慣れない激務によって店主が倒れ、亡くなってしまったことに責任を感じていたからだ。

 また、自由奔放な生き方の姉をずっと許せずにいる50代の女性は、姉から贈られた天国宅配便の中身に困惑。加えて、姉に子どもがいたことが分かるという衝撃的な展開に…。女性は子どもたちから頼まれ、煩わしく思いながらも姉が突然、家族のもとから姿を消した理由を探すこととなる。

 こんな風に、登場人物たちが死者からの贈り物を簡単に尊がらないから、本作にはリアリティーがあり、感情移入もしやすい。そして、感動の押し付け感がないため、各ストーリーの結末がより心に刺さる。

 収録作の中で特に涙腺が緩んだのは、シェアハウスで暮らす20代女性・須藤未玖(みく)の物語だ。未玖が受け取ったのは、かつてファンレターを送っていた漫画家からの天国宅配便。

 だが、未玖は今を生きることでいっぱいいっぱい。コロナ禍によって、スポーツインストラクターからテレアポ業に転職した未玖は人に話せない“仕事の悩み”を抱えており、出来高制のプレッシャーも感じる日々を送っていた。

 だから、小学生の頃にファンレターを送っていた漫画家・犬神ケイから天国宅配便が届いても、「思い出でお腹は膨れない」と冷めた考え。天国宅配便には犬神ケイが病床で描いたと思われる漫画が入っていたが、読む気にならなかった。

 だが、職場での昼休み中、未玖はポケットに偶然、天国宅配便で届いた犬神ケイの漫画が入っていることに気づく。暇つぶしに…と漫画を読み始めた未玖だったが、それを機に“忘れていた自分”を思い出し、今との向き合い方が変わる。

 人は永遠に子どものままでは生きていけないが、大人になったからこそ、耳を傾けたい“子どもだった自分の声”もあるのではないだろうか――。そんな自問自答も与えてくれる未玖のストーリーには予期せぬスリルも隠されており、感動以外の感情も大きく揺さぶられることだろう。

 なお、本作は連作短編小説であるため、隙間時間に少しずつ読み進めることができて嬉しい。仕事や家事、育児などの間に本作の世界観に浸ると、目の前の暮らしを乗りきる活力がチャージされる感覚になるはずだ。

 また、エピローグでは天国宅配便を承る配達員側の苦悩も知れて面白い。他者から一生ものの想いを託されるのはどんな感覚なのだろうと、つい想像してしまった。

 もし、天国宅配便があったとしたら、私は誰に何を送るだろうか。そして、天に召されても伝えたいほど強い想いを、私は誰かに抱けているだろうか――。そうした疑問も浮かぶ本作は生きる意味を問いたくなった時、手にとってほしい小説だ。

文=古川諭香

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