『ルポ池袋アンダーワールド』“消滅可能性都市”の危機を乗り越えた「池袋」の妖しげな魅力と怪異
公開日:2022/8/13

昭和の時代、「ダサい」「危ない」「埼玉の植民地」と呼ばれた“副都心”池袋。池袋が位置する豊島区は1999年に財政破綻のピンチに陥り、2014年には人口減によって東京23区で唯一「消滅可能性都市」に指定されるなど危機的な状況もあったが、ここ最近は人口も増えたことや再開発によりすっかり垢抜け、「オシャレ」「きれい」「安全」な街となった。






[西口 メトロポリタン改札 西口(南) 西武南口]池袋駅には東口と西口があり、それぞれに中央・南・北、計6つの出口がある。さらにJRのメトロポリタン改札、東武東上線出口の西口(南)、西武池袋線出口である西武南口が存在している。太平洋戦争後の時代は東西とも駅前に巨大な闇市が広がっていた。
しかしどんなに綺麗に化粧をしても、多くの人が行き交う日本有数のターミナル駅となっても、奥に潜む土地の記憶はそう簡単に消し去ることは出来ない。池袋の其処此処には真っ黒な落とし穴がポッカリと口を開けていて、今も様々な人たちを飲み込み続けている。

そんな、目を凝らせば見えてくる、“池袋”の仄暗く妖しげな魅力と怪異が綴られた実話集が『ルポ池袋アンダーワールド』(大洋図書)だ。著者は貧困や介護、風俗などをテーマとするノンフィクション作家の中村淳彦さんと、官能小説やホラー作品、エッセイで女の性(さが)を描き続ける作家の花房観音さんだ。

本書はこの2人が交互に章を担当し、池袋の奥深くへと足を踏み入れていく。第一章は「池袋の怪」と題した花房さんのパートだ。岡本綺堂『池袋の怪』を引用し、江戸時代に池袋村の女を下女に雇うと不思議なことや怪異があるという話(明治中頃までそんなことが信じられていたという)から、「巣鴨プリズン」があった東池袋中央公園とサンシャインシティ、山田浅右衛門の墓、江戸川乱歩の住居跡と歩を進めていく。


中村さんによる第二章「史上最高齢のSM女王様」には、近隣に寺が多い「あずま通り」が出てくる。中村さんは史上最高齢のSM女王に手招きされるまま、墓地のある路地を曲がって彼女の家へ行くのだが、その道程も、家の佇まいも、SM女王の存在や会話も、まるで白昼夢のようだ。現場は佐木隆三の小説『復讐するは我にあり』(文藝春秋)の題材となった連続殺人鬼・西口彰による殺人事件があった、雑司が谷に存在したアパートのおそらく目と鼻の先だ。



2人はさらに池袋の深い闇の中へと入っていく。木嶋佳苗、桶川ストーカー殺人事件、池袋ミカド劇場、江戸時代の辻斬りとそれを供養する四面塔があった池袋西武と池袋パルコの間、街娼と高齢者、ラブホテル街での事件、沿線に住む女子大生風俗嬢と子供部屋おじさん――読む私たちも、東口に西武があり、西口に東武がある“不思議な池袋”のアンダーワールドに飲み込まれていく。






「おわりに」では、本書を手がけている間に中村さんの身に起きたご不幸が記されている。また花房さんも最近突然に体調を崩されたと伺っている。たくさんの人を引き寄せる場所には、様々な正と負の力が渦巻いている。池袋アンダーワールド、くれぐれも心して向かわれたし……

文・撮影=成田全(ナリタタモツ)