有名人をコラムで一刀両断! 39歳で亡くなったナンシー関の切れ味鋭いコラム集のベスト版!
公開日:2022/10/22

テレビ評を中心にキレッキレのコラムを書いていたコラムニスト・ナンシー関氏が亡くなって、20年が経つ。テレビを見ていてモヤモヤすることがあると、ああ、この違和感をナンシー関氏ならどう表現するだろう、と思うことは何度もある。
そんなナンシー氏の仕事の中で特に卓越したコラムを厳選し、収録したのが『超傑作選 ナンシー関 リターンズ』(世界文化社)。彼女のもうひとつの特技だった消しゴムハンコもカラーとモノクロで掲載されている。ただ、彼女は02年に39歳で亡くなっているから、本書で俎上に載せられているのは、主に90年代に活躍した芸能人だ。従って、昨今はメディア露出の減った芸能人に関するコラムも多数含むのだが、それはそれで面白く読めてしまう。

例えば、99年に書かれた木村拓哉氏についてのコラム。キムタクはSMAP内バランスでは相対的に歌がうまいことに触れ、
「(木村拓哉は)音楽的大黒柱としての自覚からか、責任感からか、キャパシティ以上の責務を負おうとしてしまっている。『夜空ノムコウ』『セロリ』以降、節まわしのオカズ多すぎ」
と指摘する。

中山秀征氏についてここまで深く掘り下げたのもナンシー氏くらいだろう。
「(中山氏の)ぬるさ加減もゆるさ加減ももちろんつまらなさ加減も、全てぴったり。(中略)特に何ができるというわけではないが、しかし何もできないというわけでもない。不愉快ではないけれど愉快というほどのこともない」
と一刀両断。これだよ、これ、僕が読みたかった批評って! そんな風に、幾度となく快哉を叫んでしまった。
また、元オリンピック選手ほどツブシが利く人はいない、という旨のコラムでは、「10年後、ヤワラちゃんは選挙に出ていると思う」と1995年に書いているが、実際、ヤワラちゃん(谷亮子)は2010年5月10日に参院選で民主党の比例区から出馬、当選した。なんという慧眼だろう。
ナンシー氏の芸能界ウォッチャーとしての特徴は、世間的には「イケてる」とされる番組や芸能人に「ほんとにそう?」と、ひたすら突っ込みを入れるというもの。しかし、ポリティカル・コレクトネスなる概念が定着した現在、もしナンシー氏が生きていたら、彼女の切れ味鋭い文章がどう受け止められたか疑問ではある。
文章はずば抜けて巧く、目の付け所が突出して面白いが、メジャーな媒体では「うちではNG」ということになったかもしれない。ナンシー氏のような切れ味の鋭すぎる表現は、今なら、誰かを傷つけるかもしれないという過度な忖度や自主規制で、お蔵入りになっていた可能性もあるのではないか。もちろん、誰も傷つけない表現なんて存在しないわけだが。
ナンシー氏の逝去後、彼女のポジションは事実上、空席になっている。ナンシー氏と交流の深かった小田嶋隆氏が急逝したこともその事実を強く印象付けた。コラムではナンシー氏の影響を受けた武田砂鉄氏がひとり気を吐くが、先述の空席に自然な形で誰が収まるかは、今のところ未知数である。ナンシー関氏が安易な後継者を生まないのは、それだけ彼女が座っていた席が盤石だったからだろう。39歳、早すぎたよなあ……。
文=土佐有明