大殺戮から生き延びた女性たちに迫る新たな敵…名作ホラー映画へのオマージュ満載のホラー・ミステリー!
公開日:2022/12/16

どんな物語にも続きがあるはずだ。たとえば、ホラー映画。目の前で繰り広げられた大殺戮の中、殺人鬼を倒し、たった1人生き延びた人物——映画批評において「ファイナルガール」と呼ばれるその女性がもし実在するとしたら、一体その後どんな人生を歩むのだろう。血まみれになりながらも勝利をおさめたその瞬間、ファイナルガールは生き残れたこと、そして、仲間の仇を討てたことに安堵しているかもしれない。だが、その突然の惨劇はその後の人生に暗い影を落とすのではないか。悪夢のような時間を忘れることができず、延々とその時間に苛まれ続けるのではないだろうか。
『ファイナルガール・サポート・グループ』(グレイディ・ヘンドリクス:著、入間眞:訳/竹書房)は、そんなファイナルガールたちのその後の姿と、彼女たちに襲いかかる新たな脅威を描き出す物語。『吸血鬼ハンターたちの読書会』(早川書房)などの著作で知られるグレイディ・ヘンドリクスの最新作だ。ニューヨークタイムズのベストセラー小説に選出されたほか、アカデミー賞女優、シャーリーズ・セロンと『IT/イット』の監督、アンディ・ムスキエティがタッグを組んでドラマ化も決定。これから日本でも大きな話題を呼ぶに違いないホラー・ミステリーなのだ。
主人公はリネット・ターキントン、38歳。22年前の大殺戮を生き延びたファイナルガールである彼女は、凄惨な殺人事件で生き残った女性のためのサポート・グループに10年以上参加し続けている。このグループにはリネットの他に5人のファイナルガールとセラピストが参加しており、その時間はリネットにとってかけがえのないものだった。だが、近年、参加者は衝突してばかり。そんなある時、参加者の1人が何者かに殺害される。一体、犯人は誰なのか。ファイナルガールたちに新たな危機が迫り来る。
この物語は、ホラー&スラッシャー映画好きにはたまらない。というのも、この物語に登場するファイナルガールたちは、『13日の金曜日』や『悪魔のいけにえ』、『ハロウィン』、『スクリーム』など、全員が名作映画のオマージュなのだ。そんなファイナルガールたちの共演、クロスオーバーは、ホラー&スラッシャー映画を知り尽くしている作者だからこそ描けるもの。原作を知っていれば、彼女たちのその後の姿に思わずハッとさせられるだろう。
だが、どんな作品のオマージュが隠されているか知らなくとも、気づけば、ファイナルガールたちの運命から目が離せなくなる。実際に起きた虐殺事件が評判となり映画化され、各々の事件で唯一生き残った少女たち自身も有名になっているというこの物語設定はあまりにも秀逸。
そんな世界の中で、ファイナルガールたちは20年近くの時が経っても、人生の立て直しに苦労している。たとえば、主人公であるリネットは、いつ自分が襲われるか分からないという強い警戒心を抱えたまま暮らしている。自宅の窓を防犯用の鉄格子で覆い、銃も複数所持。外出した際は毎回帰るルートを変え、周囲への警戒を怠らない。そんな彼女だからこそ、メンバーの1人が死んだ時も、次に誰が殺されてもおかしくないと確信する。他のメンバーからは「正気じゃない」と言われるリネット。「被害妄想では?」と感じさせられるほど、突飛な思考と行動を繰り返す彼女をどこまで信じていいのかと読み手も戸惑うことだろう。だが、だからこそ、この物語は面白い。正体不明の殺人鬼。誰のことをも疑ってかかる語り手。次から次へと巻き起こる不可解な事件……。一体、真実はどこにあるのか。先の読めないクレイジーな展開にドキドキが止まらない。
この物語はメタフィクションであり、見えない殺人鬼との戦いを描き出すホラー・ミステリーだ。だが、ジェンダーやミソジニー、エイジズムなどのテーマが描かれた内容は、つい現実と重ね合わせたくなる。そして、リネットをはじめとするファイナルガールたちの苦悩に触れるにつれ、かつての凄惨な事件がどれほどその後の人生を狂わせるものなのか、見せつけられたような気持ちになる。新たな敵と遭遇した時、彼女たちはどう行動するのか。これほどまでにハラハラさせられた小説は久しぶりだ。ジェットコースターのようなスリルあふれるこの物語をあなたも手にとってみてはいかがだろうか。
文=アサトーミナミ