絵本「パンどろぼう」に「おにぎり」登場。累計170万部突破の人気絵本シリーズがまさかの主人公変更?

文芸・カルチャー

更新日:2023/2/28

パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち
パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち』(柴田ケイコ/KADOKAWA)

 パンから目と鼻をのぞかせる謎の泥棒が繰り広げるほっこり系クライム・ストーリーと、子どもに大ウケの見開きページのインパクトで人気の絵本「パンどろぼう」シリーズ。シュールな世界観とキャラクターのかわいさに、子どもだけでなく、読み聞かせをする大人も虜にしてきた。そんな、累計170万部を突破するシリーズ第4弾が、本書『パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち』(柴田ケイコ/KADOKAWA)だ。

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パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち P2-3

 パンを愛し、おいしいパンを求めて盗みを繰り返す「パンどろぼう」。第1弾『パンどろぼう』のラストで泥棒から足を洗い、晴れてパン職人となったパンどろぼうは、「にせパンどろぼう」や「なぞのフランスパン」との騒動を経て、同じ思いを持つ仲間を得ながら、パンへの愛を深めてきた。

 そして待望の第4弾の主人公はなんと、パンではなく「おにぎりぼうや」。「パンどろぼうシリーズなのに、おにぎり?」と戸惑うものの、おにぎりは、パンと並んで子どもたちが大好きで、絵本の題材として古くから愛されてきた食べ物。そんなおにぎりのキャラクターなら子どもに愛されそうだが、表紙のおにぎりぼうやは、なんだか浮かない顔で、膝を抱えている。

パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち P4-5

 そんな彼のいでたちを見て、察しのいい大人はその正体に見当がつくに違いない。とはいえ、これは前3作の続編なのか。それとも、パンどろぼうたちが暮らす世界とは別の場所で展開されるパラレルワールドものなのか――子どもとはまた違う種類の期待に胸を膨らませて、大人はページをめくるだろう。

 どんな展開が待っているのかは、子どもと大人が一緒に読み、楽しんでほしいので詳しくは書かないが、主人公の葛藤あり、敵の襲撃あり、お腹が鳴りそうなパンvsおにぎりの「どっちの料理ショー」的対決ありと、見どころ満載。シリーズ定番の、子どもが喜ぶダイナミックなページ遣いもさすがだ。

パンどろぼう おにぎりぼうやのたびだち P8-9

 物語は、主人公のピンチにハラハラし、おにぎりぼうやの表情に笑い、食べ物が並ぶページに心躍らせる、そんな子どもにとって満足感たっぷりの内容だ。そして、点と点がつながる見事なラストに大人は「そう来たか!」と納得。さらに、親子の絆や、子の成長を感じる親の複雑な気持ち、夢を持つこと――シンプルなストーリーで描かれるたくさんの「大切なもの」に、大人も心を揺さぶられるはずだ。

 本書を読めばこれまでの3作をまた新鮮な気持ちで楽しめるため、シリーズのファンは必見だ。さらに最新作は純粋な続編ではなく、前作の内容を知らなくても大丈夫。「パンどろぼう」シリーズが気になっている人の入門編としてもおすすめの1冊だ。

文=川辺美希