裏社会を知り尽くした作者が放つアングラ小説! 週刊誌の記者が表社会と裏社会の情報を網羅する「インフォーマ」と出会って…

文芸・カルチャー

更新日:2023/5/14

インフォーマ
インフォーマ』(沖田臥竜/サイゾー文芸部)

 自分の目に映る世界は、この世で起きていることのごく一部。そう分かっているから、人は知らない世界へ興味を持つ。『インフォーマ』(沖田臥竜/サイゾー文芸部)は、まさにそんな好奇心を満たしてくれる、裏社会を題材にしたアングラ小説だ。

 著者は、元山口組二次団体の最高幹部。所属組織の組長が退任したことを機に、ヤクザ社会から足を洗い、なんと作家デビュー。14年ぶりに刑務所から出てきた元ヤクザの混乱と奮闘を描いた『ムショぼけ』(小学館)はテレビドラマ化も果たすなど、大きな話題を呼んだ。

 裏社会に身を置き、実際に刑務所での服役も経験しているからこそ、著者が綴るアングラ物語はフィクションだと分かっていても、どこかリアリティがあり、引き込まれてしまう。

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 本作もそうだ。題材である、高い情報収集能力を持って日本社会を意のままに動かす「インフォーマ」が本当に実在するのではないかと思わされ、目に映るいつもの景色が少し変わるのだ。

週刊誌の記者が無敵の情報屋「インフォーマ」と未解決事件の真相解明に挑む

 週刊誌の記者である三島寛治はノンフィクションを書きたいという夢を抱いていたが、心掴まれる魅力的な対象者と出会えず、原稿の筆が進まない日々を送っていた。

 ところが、上司からの紹介で、ひとりの風変わりな男と出会い、平凡な日常は一変する。男の名前は、木原慶次郎。ヤクザである木原、実は都市伝説のように語られている「インフォーマ」のひとりだった。

 インフォーマとは、表社会から裏社会までの情報を完全に網羅し、世の中をコントロールしているとされている情報集団のこと。最初は半信半疑だったが、木原が漏らした情報はほどなくして、次々と世間を騒がせるビッグニュースになっていき、三島は驚愕。本物のインフォーマだと確信するようになっていく。

 その後、三島は上司から半ば強引に押し付けられ、木原と共に迷宮入りしたいくつかの未解決事件の真相を調べることに。どうやら、それらの事件の背後には、冷徹な暗殺集団が深く関係しているようだった。

 自信過剰で言いたいことをズバズバ言うクセの強い木原に振り回されながら、三島は暗殺屋の正体を探るべく、社会の暗部へと足を踏み入れることになる。

 その先にあるのは、一体どんな真実なのか。そして、木原はどう敵に立ち向かうのか…。次から次へと疑問が浮かんでくる本作は、予想を裏切る展開や、予測不能な木原の行動にドキドキハラハラさせられるジェットコースター小説だ。

 パンデミックや暴力団の抗争など、実在の事件や出来事なども織り交ぜられており、よりリアリティが感じられ、自分の知らない世界への探求心もさらに増すことだろう。

 裏社会という舞台設定ではあるものの、三島と木原のやりとりが軽快で、重々しい雰囲気になりすぎていないのも本作の良さ。普段、アングラ系の小説を手に取らない方も読みやすいと思う。

 また、本作は実力派俳優の桐谷健太やGENERATIONS from EXILE TRIBEの佐野玲於、元V6の森田剛など豪華キャストで映像化されたが、原作にはドラマとはまた違った展開も多数盛り込まれている。ドラマを楽しんだ方も本作に触れ、もう一度、作者が描く裏社会にドギマギしてほしい。

 傲慢で、三島に悪態をつくけれど、決めるべきところでは漢気を発揮し、自分が口にしたことは死んでも守ろうとする意志の強い木原は、どこか憎めない魅力的なキャラクター。本当にこんな人がいたら…と、きっとあなたも読後は木原が存在する世界を想像したくなるはずだ。

文=古川諭香