遺伝子操作された女子高生が、獣と化して戦う? 世界一怖いもの知らずのラーテルやライオンやカバなどによる獣人バトルマンガ

マンガ

公開日:2023/8/30

キリングバイツ
キリングバイツ』(村田真哉:原作、隅田かずあさ:作画/ヒーローズ)

 自然界を生きる動物たちは、驚異的な能力を持っていることがある。超音波で仲間の位置を把握する、時速100キロを超える猛スピードで走る、毒液を噴射する、周囲の風景に同化する……。それはもう数え切れないほどで、その一つひとつが野生のなかで生き延びるために備わったもの。そんな能力を持つ者たちの死闘を描き、人気を集めているのが『キリングバイツ』(村田真哉:原作、隅田かずあさ:作画/ヒーローズ)だ。

 本作の主人公のひとり、野本裕也は冴えない大学生。気が弱く、流されやすい性格も手伝って、あるとき、知人が計画した犯罪計画に巻き込まれてしまう。それは女子高生を襲うというものだった。ただのドライバーとして雇われた裕也は動揺する。しかし、裕也にはどうすることもできず、拉致された女子高生の叫び声を運転席でただ聞いているだけ。……が、気付けば、物音がやんでいる。不思議に思った裕也に声をかけてきたのは、被害に遭っていたはずの女子高生だった。代わりに被害に遭ったのは、拉致した側の男たち。彼らはひとり残らず、女子高生によって惨殺されてしまったのである。

 こんな衝撃的な展開で本作は幕を開ける。もうひとりの主人公である瞳という名の女子高生は、一体なにをしたのか。その謎はすぐに明らかになる。ただし、裕也にとってそれは非常に信じがたいことばかりだった。

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 瞳の正体は「獣人」で、これは遺伝子操作によって動物の特性を植え付けられた人間であること。瞳は「蜜獾(ラーテル)」の名を持ち、地上最強の小型哺乳類の能力を備えていること。獣人は他にも大勢存在しており、各地で獣人たちのバトルである「牙闘(キリングバイツ)」が行われていること。そして「牙闘」は、日本を裏で牛耳る4財閥による代理戦争であること――。

キリングバイツ 第1巻022

キリングバイツ 第1巻036‐037

 突然のことに理解が追いつかない裕也。しかし、そんな裕也の前で、瞳はラーテルとしての圧倒的な強さを示してみせる。そしてこの瞬間から裕也は、獣人たちの血で血を洗う闘いの世界に巻き込まれていくのだった。

 上述したように、本作のバトルではさまざまな動物の能力を持つ者たちが描かれる。全身から鋭い針を伸ばす「山荒(ラウディ)」、分厚い装甲のような皮膚を持つ「河馬(ヒポポタマス)」、肥大化した二の腕を振り回す「巨猩羅(ゴリラ)」、相手の死角に回り込み、必死の一撃を放つ「虎(ティガ)」。いずれの獣人も元となる動物の能力を最大限に活かし、対戦相手の息の根を止めようと牙を剥く。

キリングバイツ 第3巻96

キリングバイツ 第3巻97

キリングバイツ 第2巻177

キリングバイツ 第2巻178

 本作の見どころはまさにここ! 動物たちが実際に持つ能力をバトルに組み込むことで、他に類のないような迫力あるシーンが活写されていく。もちろん、事前知識などはいらない。それぞれの動物の能力に対する丁寧な解説も挟まれるため、すんなり理解した上で純粋にバトルを楽しめるように描かれているのだ。知られざる動物たちの能力に興奮しつつ、気付けば、瞳を中心とした闘いに没頭してしまうはずだ。

 また、第6巻ではあまりにも衝撃的な展開が待ち受けている。ネタバレはできないけれど、ここで裕也と瞳との関係にひとつの決着がもたらされる。

 そして続く第7巻からは第二部がスタートする。それに伴い、主人公は「媚戌(ビーグル)」の獣人である戌井純にバトンタッチ。しかし、圧倒的な強さを誇った瞳とは異なり、ビーグルの力を持つ純は決して強いとは言えない。

キリングバイツ 第7巻029

 そんな純が目指すのは、「牙闘」のチャンピオンだという。それが容易に叶うとは思えないが、それでもひたむきに前を向く純は応援したくなる存在だ。

 純はチャンピオンになれるのか。そして瞳や裕也はなにをしているのか。それぞれの思惑が絡み合いながら、物語は「牙闘」を中心に加速していく。人間も獣も、ぶつかり合うことでしかわかり合えないのだろうか……と嘆息しつつも、やはりその展開からは目が離せないはずだ。

文=イガラシダイ