ダ・ヴィンチ編集部が選んだ「今月のプラチナ本」は、瀬尾まいこ『私たちの世代は』
更新日:2025/1/10

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年10月号からの転載になります。
『私たちの世代は』
●あらすじ●
「今でもふと思う。あの数年はなんだったのだろうかと」。2人の小学3年生の少女、冴と心晴を襲ったのは未曾有の感染症による、日常生活の急激な変化。なんとか不自由な登校自粛期間を乗り越えた2人だったが、冴は家庭環境のせいでイジメに遭うようになり、心晴は休校明けに登校のきっかけを失ったことで、自宅に引きこもるようになってしまう。感染症の始まりから15年後、2人は就職の季節を迎え――。
せお・まいこ●1974年大阪府生まれ。2001年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年、単行本『卵の緒』でデビュー。05年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞を、09年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞を、19年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞受賞。ほか『強運の持ち主』『夜明けのすべて』など著書多数。
- 瀬尾まいこ
文藝春秋 1870円(税込)
写真=首藤幹夫
編集部寸評
私たちが複数形でこそ思い描ける社会
小学3年生の冴と心晴は、彼女たちが置かれた環境下でそれぞれの出会いを果たし、歳を重ねる―こう書くとシンプルだが、誰かと共にあるということの意味は、数年単位ではわからないことがある。少年少女を描いた物語が大人になったはずの私たちの胸に迫るのは、その証だろう。身近な人間との一時的な不和を、見知らぬ他者とのやり取りが支えることもある。アナログとデジタル、対面と非対面の二項対立ではなしに、人と社会の有り様をミドルレンジで丹念に捉えた思い継がれる作品。
川戸崇央 本誌編集長。連載発の長濱ねるさん『たゆたう』が二形態同時刊行。今号では宮﨑駿監督の映画『君たちはどう生きるか』記事(146P〜)を担当しました。
「ディスタンス世代」が知っている素敵なこと
自分達はとても恵まれた世代なんてどの世代も思っていない気がするが、コロナ禍に青春を奪われた世代の恵まれてない感はとりわけではあるまいか。しかも「私たちの年代は人との距離の取りかたが下手だとか、積極的に人とかかわろうとしないだとか」年長者から評されたらもう……。しかし本作は災厄がもたらした光の部分も丁寧に描き出す。たとえば誰かと会うための約束が明日を待つ希望になるということ。何度も忘れるであろう日常の尊さを何度も思い出させてくれる力強い小説。
西條弓子 SNSマンガ特集を担当。心から推せる作品ばかり紹介しています。だらだらSNSを見ているうちに空が白んでいる日々の成果がここに!
幸せな食事の記憶とともに
私たちにさまざまな制限を課したコロナだが、特にこの時期に青春を過ごした世代にとって、奪われた喜びや楽しみはとりわけ大きいのだろう。「家で過ごすことが最善だとされていたあの期間が私に与えたものは何だろう」。ディスタンス世代、マスク世代、そんな言葉でくくられるのかもしれないが、会うことを制限されても、人とつながりながら手探りで日常を進めていく、そんな強さを感じられる。そして、幸せな食事の記憶は、どんな世代であっても心に刻まれ、受け継がれていく。
久保田朝子 連日の猛暑で、必要最低限しか歩きたくない……。ついには平均歩数4000歩を切りそうになり、そろそろマズイかもと地下道を歩いています。
もう3年か、まだ3年か
「何だったんだろうね。あの日々って。私たちにどう作用したんだろう」この言葉にとても共感を覚えた。私自身、コロナ禍で中止になった数多くの出来事を今でも思い出す。当時叶えられなかった目標や約束、後悔が積み重なり、今でも心残りを持つ人は多いのではないか。本作は“あの時出来なかった”苦しみを正面から描写し、そしてあの時があったからこその出会いも描いている。未曾有の時代を経験した私たちの思い出を“忘れないよ”と抱きしめてくれるような、暖かさを感じる物語だ。
細田まりえ 数年ぶりに日傘を新調。が、買って1カ月で壊れました。ビル風に煽られて……。しかし全壊ではないので、未だ使い続けています。まだいける。
今を生きる人たちへ
瀬尾さんの物語は、そっと背中を押してくれるような、温かさと優しさに満ちている。感染症の流行により、それまでの日常が一変し、不自由な生活を送らざるを得なかった冴と心晴。学生時代と、就職を目前に控えた“今”を行き来しながら紡がれる彼女たちの人生を通して、窮屈なあの日々も決して失ったものばかりではなかったことに気づく。あの時だからこそ出会えた人、気づけたことがある。立ち止まり、躓きながらも歩む冴と心晴の姿に、明日を生きる勇気がもらえるのだ。
前田 萌 コロナ禍に入ったのは入社1年目のころ。誰とも話さず、家からも出ず。とても孤独を感じた一方で、リモートワークの良さにも気づいた日々でした。
失われた時間の中で得たものとは
孤独感や張り合いのなさ、一方どこかで感じている他人と会わない環境に対する居心地の良さ。コロナ禍の真っ只中で私たちも実際に感じたであろう様々な思いがこの小説には詰まっている。感染症によって、先の見えない不安を抱えたまま青春時代を過ごした冴と心晴。 失われた時間もあった中で、彼女たちが手に入れてきたものが美しく丁寧に描かれる。先が見えなく不安であったとしても、未来は思いもよらぬ方向に開けていくこともあるのだと希望をもらえるストーリーであった。
笹渕りり子 ステイホームの時期は、リモート飲みなども流行りましたね。何度かトライしましたが、画面をオフにして解散した後の虚無感が耐え難かったです。
あの日々と共に生きていく
感染症について語るとき、自分たちの時に得られた経験と比較して失われたものばかりを取り上げ、当時多感な時期を過ごした子どもたちを「可哀想」などと思ってしまいがちだ。だが、その時代に生きた彼らには、その中で得たものもあったのではないか。悔しい思いをした人もたくさんいたはず。それでも、本著の「あの日々が連れてきてくれたものがたくさんある」の言葉も、一方で本当のことなのではないか。悲観的に語られがちなあの日々と、その先の未来にも希望を感じる一冊だった。
三条 凪 当時社会人2年目だった私。これからリモートワークになるという時、当時の上司が言った「それじゃ、解散」という言葉がなぜかずっと忘れられない。
ばらばらだけどつながる
学生最後の一年を感染症とともに過ごした私自身、対面授業や卒業式など、失ったものは多くある。理不尽だけど社会の変化は選べない。だからこそ、起きている現実を自分の意志で後悔のない道にするという覚悟がどうしても必要だったように思う。その覚悟を支えるのは、行動の変化を強いる社会の中で、変わらずそこに存在してくれる周囲の人とのつながりではないだろうか。分断された社会でこそ気づく、つながりの尊さを語る一冊。この自粛期間を共に乗り越えた周囲の人々に感謝。
重松実歩 リモートで新卒研修を乗り切った世代です。朝に弱く、基本胡坐で作業したい私にとって、顔しか映らないリモート研修はある意味とても気楽でした。
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