SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第29回「有名人」
更新日:2023/11/28
「え」
思ったのと違う反応に、今度は私が情報を処理しきれなくなった。あれ、もっとこう、反射的な大きなリアクションを予想していたのだけど。何かおかしなことが起きているのは間違いない。ただそれがなんなのかわからない。
しかし私は瞬時に思い至った。空目だ。
SUPER BEAVERのTシャツだと思っていたが、ただ似ているTシャツだったのかもしれない。そうだったら、もうなんだか滅茶苦茶に恥ずかしい。ただそうであるなら、全てに合点はいく。私は目を血走らせながら物凄いスピードで半歩引いて彼のTシャツを確かめた。しかし、それは紛れもなく、SUPER BEAVERのTシャツだった。私は言った。
「え」
彼も言った。
「え」
え、なんだ、まじどういうことだ。お互い困惑していて、二人ともすごく可哀想な顔になっていた。私は頑張って考える。もしかして気づいていないのか、あるいは我々の外見とか全然知らないのか。いやそれにしても、この情報社会、ぼんやりでも好きなバンドの見てくれくらいは把握しているはずだろう。そしてTシャツ着てるからにはライブもきてくれたことがあるんだろうし。あと案外俺わかりやすい見た目だし。事態が一歩も進展しないまま、時間だけが過ぎていく。
「えーと」私は言う。
「はい」彼は言う。
こうなれば仕方がない。ゆっくり解き明かしていく余裕なんて全然ない。この状況が打破できるなら、いくらか払うことだってやぶさかではない程に動揺していた。早く解決したい、すぐに安心したい、もはやもう帰りたい。
「あれ」思ったよりも上擦った声が出た。「だって、このTシャツ」
彼は、私の指した自分のTシャツに目を落として、その後で私に視線をやった。そして彼は小さな声で言った。
「これ、あれっす。あの」
「ん?」
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。2025年4月に結成20周年を迎え、SUPER BEAVER 自主企画「現場至上主義 2025」を4月5日、6日にさいたまスーパーアリーナで行い、さらに、6月20日、21日に自身最大規模となるZOZOマリンスタジアムにてライブを行うことが決定。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中