第1回「薩摩ポッター」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない①

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/12

 アドレナリンによるバグでなんとか突き進んでいったが、最大の後悔は途中に現れるレストランで楽しみにしていたフードプレートを物理的に食べられなかったことだった。

 ホグワーツ魔法魔術学校の4つの寮をイメージしたプレートなんだけど、どれも肉が主体でどうしても向き合うことができなかったのだ。二日酔いの時って、ケンタッキーは食べられるのに肉だけになるときつくて食べられないのは何でなんだろうね。

 最終的にどこでも食べられそうなポップコーンと高級な水しか摂取することができず、飲み食いするために生きている自分にとっては悔やんでも悔やみきれない結果となった。

 薩摩焼酎、本当にやってくれたな…とまるで空想上の母親を殺されたような憎しみが芽生えそうになったがふとスマートフォンの写真フォルダを見て怒りは引いていった。あまりにアルコールの魔力が強すぎて終始記憶が消されていたけれど、スマートフォンはしっかり覚えていたのだ。あの時の、苦しみだけではなく仲間と顔がくしゃくしゃになるくらい笑い合った愛しい時間のことを。

 全てお前のせいにして悪かった…と3Dメガネで足元が見えず足が絡まって膝から崩れ落ちた。ごめんな。そもそも飲んだのは自分なんだよな。

 写真を見れば見るほど忘れてしまっていたかけがえのない時間が蘇る。ここには、また来ればいいじゃないか。涙で画面が滲みそうで滲まない。

 ホグワーツを出て人間界に戻った瞬間、ポップコーンがうまく消化できなかったのか、胃が悲鳴を上げ始めたのでタクシーで帰宅した。チケット代の2倍の値段がかかってようやく涙で視界がぼやけた。

 アルコールは魔法だね。

<第2回に続く>
さかむら・ゆっけ、●酒を愛し、酒に愛される孤独な女。新卒半年で仕事を辞め、そのままネオ無職を全う中。引っ込み思案で、人見知りを極めているけれど酒がそばにいてくれるから大丈夫。たくさんの酒彼氏に囲まれて生きている。食べること、映画や本、そして美味しいお酒に溺れる毎日。そんな酒との生活を文章に綴り、YouTubeにて酒テロ動画を発信している。気付けば、画面越しのたくさんの乾杯仲間たちに囲まれていた。