第2回「タイタニック二郎」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない②

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/26

 スープの死海に浮かぶもやしとキャベツによる氷山。食欲が完全に沈みきる前にもやしを片っ端から処理していく。シャクシャクと鳴り響く虚無。この時はまだこんもり盛られた野菜と麺の位置をくるっと入れ替える「天地返し」という技を習得していなかったので、味のしない素材のままの野菜をうさぎのごとく食べ進めた。

 食べても食べても麺が見つからず、ようやく箸で麺をサルベージ。この時、すでに胃の中でビールと野菜が集合して水分量がなんかもうすごいことになっている。
 気付けば私は泣いていた。腹パンで。大好きなドラマで「泣きながらご飯食べたひとは生きていけます」という台詞があったけど、泣き飯にこれも入るのだろうか。

 さらに問題がひとつ。野菜のタイムアタック中に麺がスープを吸って巨大化していたのだ。

 すすってもすすってもなくならない。ラーメンが無限になっていたのだ。まさに永久機関。お酢による味変にはだいぶ助けられた。今でも恩人だと思って、毎回必ずお酢を多めに入れている。それでも完全には、麺たちを消し去ることができなかった。サボテンのトゲがお腹に刺さったらぴゅーっと全てが出ていきそうなほど限界を迎えていた。しかし、残したらブチギレられるとネットで見たことがあったのでどうしよう…と目の前が真っ暗になった。

 最終的に、どうしても食べ切れなかった残りをバレないようにスープの死海に見えないようにタイタニックさせることを決意。まるで死体を埋めているようなどんよりとした罪悪感と自分へのやるせなさに気持ちはバッドエンド。あれから絶対、余計なコールはしないように心がけています。
 酒村、猛省。

 

 今回もディカプリオは、Tシャツ越しに微笑んでいるだけで何も助けてくれなかったと勝手に失望した。今でもニンニクが匂うたびに、彼のことを思い出す。

 みなさんは泣きながら二郎を食べたことはありますか? もしかしたらこの先、ひょんなことから泣きながら二郎をすする未来が訪れるかもしれません。そんな時は、タイタニック技を使ってみてください。ジャックは、ローズを救い出すためにタイタニックに乗り込んだタイムリーパー説も浮上しているけど、私もこの文章を読んでくれた誰かを救う未来があればいいなと思ってます。

<第3回に続く>
さかむら・ゆっけ、●酒を愛し、酒に愛される孤独な女。新卒半年で仕事を辞め、そのままネオ無職を全う中。引っ込み思案で、人見知りを極めているけれど酒がそばにいてくれるから大丈夫。たくさんの酒彼氏に囲まれて生きている。食べること、映画や本、そして美味しいお酒に溺れる毎日。そんな酒との生活を文章に綴り、YouTubeにて酒テロ動画を発信している。気付けば、画面越しのたくさんの乾杯仲間たちに囲まれていた。