第3回「ミント・フォレスト」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない③
更新日:2024/2/14
黄色い植木鉢に付属の土を入れて、水をやり、種を蒔いてあとはラップで湿度を保つだけ。
数年前に1500円払って買った雑草栽培キットと同じ手順なので慣れたもんだ。ちなみにそっちはヒョロヒョロの頼りなさそうな雑草が一本アスファルトの隙間から生えてきただけだった。
雑草って 何度踏みつけられたって立ち上がるくらい強いんじゃなかったっけ…? と思ったけど気付いちゃったんだ。
雑草は面倒みて育てるもんじゃない。誰の手も借りずに図太く生き残った草が雑草になるんだって。
過保護になりすぎちゃいけないなと思い、あの時のように1時間おきに水をあげるのをやめ、程よい距離感で見守ることに徹した。すると発芽してひと月ほどで、ミントはすくすくと育ち更地だった植木鉢に帝国を築き上げた。
まさに「こんなに立派になっちゃって…」だ。

早くも収穫できるようになったので、早速自家製ミントを使ったモヒートをつくってみた。
キンキンに冷えたグラスにミントを長めのスプーンで潰すように入れ、そこにちょっと甘さを足したいので蜂蜜を入れる。氷、ラム、炭酸水を注ぎカットレモンを3つほどグラスに飾って、最後に採れたてのミントを手でパンと潰して香りを引き立てたりなんかして添えたら完成だ。
すっとフレッシュなミントの香りがソーダの背中を追いかける。こりゃ大人のシーブリーズだ。
ミントが根付いていた土地にまで思いを馳せることができる。なんて豊かな気持ちになれる一杯なんだろう。丁寧な生活ってこういうことなんだろうなと全く丁寧ではない飲み方をしていたら植木鉢いっぱいにあったミントを一瞬で消費してしまった。
これじゃ、冬越すどころか明日すら越せないじゃないか。そもそもこの植木鉢、サイズ合ってないのでは…?
なんなら植木鉢が小さくて成長できず、子供のままのキッズミントの姿も見られる。欲張って、ミント増殖計画を立て植木鉢拡張を試みたのだが、1ヶ月後にはひとまわりサイズを大きくした植木鉢でミントのおしくらまんじゅうがはじまっていた。
育ち盛りの子供のように次々とサイズが合わなくなる植木鉢。頻繁に植木鉢を交換していたら玄関が植木鉢だらけになってしまったので冷静になろう。
しかし、苦しいよ~土地をくれ~とミントの悲痛な叫びが聞こえてくる気がしてならない。私だって満員電車に乗りたくなさすぎて仕事を辞めたところもあるし、君たちの気持ちは痛いほどよくわかる。どうしたものか…。
そして、私は閃いたのだった。家の庭に直接植えればいいのではないかと。
